「おあずけ」 ぱぅん…! 気配に聡い茶うさぎは、布団が吹っ飛んだ音にぴくりと長い耳を震わせ、ついでにその状況を言葉で反芻してくすりと笑いました。 時折、茶うさぎは愚にもつかないような駄洒落を好んで口にするのです。 あまりやると、黒うさぎですら遠い目をするので自重しているんですけどね? さて、お布団から身を起こして茶うさぎは状況確認を行いました。 《くーすぷー…》と健やかな寝息を立てるちいさな黒うさぎはとっても元気な仔うさぎで、体温は平均よりちょっと高めです。 そのせいなのか、春先にはよくこうして布団を蹴り飛ばしてしまうのでした。 上のパジャマもすっかりはだけて、ぽんぽこりんのお腹が見えてしまっています。 お布団が暑いのでしょうが…かといって、そのままにしては寝冷えをしてしまいます。 茶うさぎは甲斐甲斐しく黒うさぎの袖口やズボンの裾をたくし上げると、足の先だけちょこっと布団の端から出して寝かせてあげました。 そして、明日になったら初夏用のパジャマを出してあげようと思いました。 「冬が終わると、ユーリの夏は本当に早くやってくるんだね?」 くすくすと笑みを零しながら、茶うさぎは黒うさぎの頬に軽くキスをしてから眠りました。 * * * ころりころころと時が流れていきました。 その間に、黒うさぎは失われた記憶や家族を取り戻し、更には茶うさぎと《結婚を約束した仲》にもなりました。 そして…黒うさぎはとうとう、16才のお誕生日を数ヶ月後に控えた季節…春を迎えたのでした。 ぱぅん…っ! 今年も、元気よく黒うさぎは布団を吹っ飛ばします。 ですが…ここ近年の茶うさぎに、その状況を笑う余裕はありませんでした。 何故って……。 『ユーリ…これは……拷問です』 そうでないとしたら、忍耐力を測る為の試練か…何らかのプレイです。 だって、黒うさぎは相変わらず茶うさぎよりも華奢ではあるのですが、背も昔に比べればうんと伸びましたし、やはり年頃の少年うさぎらしく伸びやかな四肢を持っています。 それに、パジャマから覗くお腹は昔みたいにぽっこりぽんとはしていなくて、骨盤の骨組みと腹筋のラインが何とも悩ましい、すらりとした細腰をしているのです。 肋骨弓の下縁から舐るようにして両手を沿わしたり、形良いお臍にキスをしたり…寝返りを打った時にちょこんと飛び出してきた可愛い尻尾を撫で撫でしたいなとか…もっと下に秘められた場所にあれやこれやの欲望を抱いたりしてもしょうがないとは思いませんか? でも……大きくなったとはいえ、黒うさぎはまだ15才です。 夏までは、おあずけなのです。 「ああ…っ!」 茶うさぎは祈ります。 「ユーリの夏が…早くやってきますように……っ!」 黒うさぎと過ごす一日一日を大切にしたいのだけど…今年に限っては、とっても痛切にそう祈ってしまう茶うさぎなのでした。 * あー、黒うさ話は書きやすいです〜。 * |