〜先生と俺の日常生活シリーズ〜
「夏の君もぴかぴか★」


20.二人でいれば冬でもアツい

  

「お世話になりました」
「また、いつでも遊びに来てね」

 渋谷家で歓待されたコンラートは、玄関で別れの時を迎えていた。
 有利の誕生日パーティーでしこたま飲まされたはずなのだがそのような気配は殆ど無く、幾らか頬が上気している程度なのは流石酒に強い国民性の表れか。

 穏やかな微笑みを浮かべて手を振る姿は大人の余裕たっぷりで、寂しいのは自分だけなのかな…等と思ってしまいそうだ。

『違うよね?』

 二人は恋人になったのだ。
 そういうふうに約束したのだから、コンラートだってきっと凄く寂しいはずなのだ。

「課題の分かんないトコ、聞きに行って良い?」
「ああ…待ってるよ」
「ゆーちゃん、そんなのお兄ちゃんが教えてあげるのに…」
「勝利はすぐ俺のこと馬鹿にするからヤダ」

 優しく上手に教えてくれたとしても、コンラートの家に遊びに行ける口実を手放したりするものか。

 後ろでまだ何か言っている勝利を放っておいて、有利は上目づかいに聞いてみた。

「コンラッド、そこまで送ってくよ」
「送り狼になるなよ〜、ゆーちゃん」

 良い感じにヨッパライ化した勝馬がお銚子を手に冷やかすが、これもスルーして有利は半ば強引にコンラートの手を引いていった。



*  *  *




「もう、ここまでで良いよ」
「でも…」
「ユーリが一人で帰る道が長い方が怖い」

 すぐに家の明かりが見えるくらいの場所で別れを告げられて唇を尖らすが、コンラートの方に折れる気はないようだ。
 
「また…すぐに会えるよ」
「そりゃそうなんだけどさ、一緒に暮らしてた間みたいには行かないじゃないか」
「卒業したら、ずっと一緒に暮らそう?それまでの我慢だよ」
「…っ!」

 人目が無いのを確認して、掠めるようなキスを唇に寄越す。

「それって…プロポーズみたい」
「みたいじゃなくて、そのものだよ。ショーマやショーリには殴られるのかも知れないけど…覚悟してる」
「俺が殴らせるもんか!」
「頼もしいな」

 くすくすと笑いながら、コンラートは前屈して有利の肩に額を押し当てた。

「君と、夏を越えて秋を過ごして冬を耐え、春を迎えたい」
「早く卒業できたらいいのに!」
「ふふ…でも、苦しくてもユーリと過ごす日々だもの。きっと楽しいよ」
「ん〜…」
「学校で教師と生徒として過ごす生活も、過ぎてしまえば二度と帰らない貴重な日々だよ。たくさん色んな物を聞いて、見て…成長するんだよ、ユーリ」
「…そうだね」

 有利はにぱりと微笑むと、やはり掠めるようなキスをしてから身を翻した。

「また会いに行くね…!プールだってまだ行ってないもん」
「ああ、夏休みはまだまだあるからね」

 小さくなっていく後ろ姿が、家族に迎えられて扉の向こうに消えていく。
 その姿を眺めながら、コンラートは自分が泣きそうな顔をしているのを自覚した。

 大人みたいな事を言ったのが嘘というわけではないけれど、幾つになったって大切な人との別れはどうにもならないくらい寂しいのだ。

「君と…夏を越えて、秋を過ごし…冬を耐え、春を迎えたい……」

 もう一度口ずさんだ言葉を、少し考えてから言い換えてみた。

「ううん…君と一緒なら、きっと冬だってぽかぽかだよ」

 胸の中に、ぽぅ…っと暖かな光をくれる人。
 大切な君と出会えたことを…君という人が生まれてきたことを、天に感謝しよう。

 君と過ごす日々の全てを掌の中で暖めて、宝物として大切にしよう。

「ユーリ…大好きだよ」



 コンラートは瞼を閉じて、謳うように囁いた。
 彼にとって宝物そのものである少年の名を唱えながら…。
 
 

おしまい





あとがき

 な…何とか夏中に終わりましたーっ!頑張った私っ!
 同じようなフレーズがグルグルしていて、あまりダイナミックな展開は無かったですが、これはこれで楽しかったです〜。 


 でも、さすがに20題あると展開が苦しくなってきて、特に後半は「お題に掠ってるようないないような…」という微妙な話になってしまったので、お題サイトの方には申し訳ないくらいの出来でしたね。

 茶うさぎに比べればマシだけど、眞魔国のコンラッドに比べると長期間の我慢を強いられそうな教員コンラート、高校卒業まで検挙されないことを祈ります。