「夏の王様」−2
〜2010年有利お誕生日企画〜
「あのさ、コンラッド」
「なぁに?」
「そろそろ降ろしてくれる?」
「どうして?」
どうしてもこうしてもない。
美麗な外国人青年におんぶされた野球少年は実に悪目立ちしているし、真っ赤になっていたのは単にコンラートの言葉に逆上せただけで、別に熱射病というほどのものでもなかったのだ。
それに…なんと言っても家が近い。高校生にもなっておんぶされた姿を家族には見られたくないではないか。
大体、この汗まみれの身体をコンラートにびたりと張り付けること自体に抵抗があって、《勘弁してくれ》と言ったのに、コンラートが傷ついたような表情で《俺と触れ合うのは、嫌?》なんて聞いてくるものだから止められなかった。
「恥ずかしいから…降ろして?」
「背中は嫌?」
ああ…またその展開か。
でも《今度こそ負けないぞ》と、有利は眉間に力を込めて断言した。
「うん!嫌っ!」
「じゃあ…」
コンラートは背中に腕を回すと、空中でくるりと有利の体勢を変えてお姫様抱っこの状態に持ち込んでしまった。
「こちらで運ぶしかないね?」
にこ…っと微笑むその表情はとても爽やかだったけれど…それだけではない何かが感じとれる。この綺麗な青年のお尻に、先の尖った尻尾を探してしまいそうだ。
「……おんぶで、お願いします」
有利は抵抗の空しさを悟ると、哀願するような眼差しでお願いした。
その様子に、荷物をカートで運んでくれている村田はと言うと、先程からえらく醒めた目で見ている。転がされまくる友人に呆れているのだろうか?
「ウェラーさん…でしたっけ?」
「ああ、そうだよ。ムラタ君」
心なしかコンラートの声も淡々としたものななる。有利に向ける時には太陽に透かした蜂蜜みたいにてろってろに甘やかな印象なのに、一体どうしたことだろう?Sっ気がある者同士、反発してしまうのだろうか?いや、こういう言い方をするとまるで有利がMのようで不本意だが。
「随分と馴れ馴れし…いえ、親しそうですけど…誰に対してもそんなにフレンドリーなんですか?」
「いいや、ユーリにだけだよ」
「へぇ…。それはまたサックリとお認めに」
村田は太陽が眩しいのかしきりに眼鏡を触っており、その度にぎらりぎらりと真夏の太陽が反射して、彼の目元を分かり難くさせていた。
「でも、そういう物言いは渋谷にとって迷惑になることもありますから、気を付けて頂きたいなぁ」
「どういう意味だい?」
「あなたが渋谷をどう想っていようが構いませんが、そういう態度を高校でもしたら迷惑だって言いたいんですよ」
「村田…っ!?」
多少スパイシーな物言いはしても、根っこの所は優しい少年なのに、一体何を言い出すのかと有利は仰天してしまった。
しかし、村田の方は更に刺々しい言い回しをする。
「あなた、渋谷のことを恋愛対象として《好き》でしょう?」
「ああ、そうだよ」
「そういう嗜好、日本では好奇心でからかわれたりすることが多いんです。特に体格差から言って、渋谷は《男に抱かれてる奴》ってレッテルを貼られて、あなたより不名誉な称号を得てしまうんですよ?」
「じゃあ、俺が抱かれる方でも構わないけど…」
「世間から見た目ってことですよ!」
村田にしては珍しく怒りに声を震わせているのを聞いて、有利はあわあわと不安そうな声を上げた。
「村田…村田、落ち着けよ。一体ナニ怒ってるんだよ」
「この男があまりに無自覚だからだよ!こんな派手な奴に言いよられてるって知られたら、君は良い晒し者だぞ?」
「しょーがないじゃん。そういうの、言う奴は隠してたって言うよ」
「…っ!」
けろりとして有利が言うと、村田は《信じられない》という顔をしてまじまじと見つめ返して来た。
「まさか…君も、ウェラーさんのこと恋愛対象として好きとか言うつもりかい?」
「う…うん。そりゃあ…釣り合い悪いの分かってはいるんだけどさ…」
ぽぅ…っと頬を染めて言えば、村田は半泣きの顔になって震えるような声を出した。まだまだ強い陽射しに照りつけられて、濃い影の中に吸い込まれていきそうな表情だ。
「でも、俺はこの人が好きだよ?それでなにか言われるとしたら、受けてたつ。だから、村田がそんなに心配することないんだ」
「心配もしちゃ、駄目なの?」
潤んだ目で見つめるのは止めて頂きたい。顔立ちが可愛らしいこの少年は、こういう表情をすると頭を撫で撫でして慰めてやりたくなるのだ。
「村田は優しいもんな。そういう噂とかで俺が傷つくのを心配してくれるのは、凄い嬉しいよ。でも…そのせいで村田が気を病んで、コンラッドと喧嘩したりするのは俺…もっとやだ」
《だって、二人とも大事だもん》という一言は、流石に恥ずかしいフレーズだったので口の中にモゴモゴと消えそうになっていたのだが、村田はちゃんと汲み取ってくれたらしい。
少し眼差しに柔らかみが戻ると、ほぅ…っと息をついてから努めて明るい表情を取ろうとしてくれた。
「うん…分かった。渋谷が嫌がるなら、もう言わないよ」
「えへへぇ…ありがとうね」
照れ笑いを浮かべてにしゃりと口の端を引き上げれば、よいしょと背負い直したコンラートが少しばつの悪そうな顔をして振り返った。
「…ムラタ君が言うのも尤もかもしれないね。噂って、一人歩きしてとんでもない形になることがあるから、俺も気を付けるよ」
「コンラッド…。ありがとね」
《なんて良い奴らなんだろう!》…嬉しくてにこにこ顔をしていると、村田がむにりと頬を掴んできた。
「君の方も気を付けろよ?間違っても、《体育館に来い》とかいう誘いに乗っちゃ駄目だからね?」
「果たし状が来ちゃうの?コンラッドを賭けた仁義なき戦いかぁ…でも、そういうのは受けてたたないと男が廃るというか」
「馬鹿!君狙いの変な奴にどーにかされるなって言ってんの!」
「はあ?」
村田という少年は頭が良いが、良すぎて気を回しすぎるきらいがある。コンラートを狙っている連中はドイツでも山ほどいたから、日本でも心配でしょうがないけれど、なんだって有利が狙われなくてはならないのか。
「野球小僧狙ってどんな良いことがあるってんだよ」
「もー…ホントに気付いてないの?ダンデライオンズのメンバーの間でも噂になってたんだよ?ドイツに留学してからこっち、渋谷がえらく綺麗になったというか…時々、色気みたいなもんまで感じるって」
「はぁっ!?」
猫耳にミミズ…いや、寝耳に水だ。
夏の暑さでみんなやられてしまったのだろうか?
「全く…。ちょっとウェラーさん、ホントに気を付けて遣って下さいよ?」
「ああ…心しておくよ」
村田とコンラートが急に調子を合わせて頷き合うものだから、有利としては喜ぶべきなのか不審がるべきなのか判然としないところだ。
* * *
村田は別に、有利のことを恋愛対象として愛しているわけではない。有利の方から《死ぬほど好きだから付き合ってくれ》と言われれば吝(やぶさ)かでもないと思っていたが、どうやらそういう気はないと知ってもそこまでショックではない。
ただ、そういうものを越えたところで…とてつもなく大事だとは想っている。
『だって、あんな風に助けて貰ったの初めてだったんだもん』
村田周りには良くも悪くも《計算できる奴》ばかりが集まってくる。村田自体が計測不能な相手を忌避するから致し方ないところだろう。
それが…有利の場合は何もかもが計算外だった。
タチの悪そうな不良に絡まれて難渋している時、たまたま目があった有利に対して感じたのは、《同級生のよしみで誰が呼びに来てくれないかな》くらいだった。それにしたって、大して親しくもなかったのだから、よほど暇でなければやってくれないだろうと思っていた。
それがまさか、身を挺して助けに来てくれるなんて思わなかった。
だから警察を呼んで来た時、既に有利が殴られたり蹴られていたりしたのを見た時には怒りと共に、今まで感じたことのない恐怖を覚えていた。
『僕のせいでこんな目に遭ったって、恨んでいるかな?』
しかしそれは杞憂というより、甚だ失礼な予測だった。
有利は素直に助けを呼んできたことに感謝して、《戻ってきてくれて良かった》と屈託無く笑ったのだ。
あの時…村田の目に、有利は眩しいくらいに輝いて見えた。
そんな彼に《虫が付いた》と気付いた時、村田は反射的にコンラートを警戒したのだ。胸の奥の一番大事なところに咲いている真っ白な花を、乱暴に摘み取られるような気がしたのだ。
けれどどうやら、それも杞憂であったらしい。
『こいつは、ちゃんと渋谷のことを考えてくれる人だ』
男であったのは少々困りものだし、嬉しさのあまりはしゃぎ気味であったので幾らか減点して見ていたが、あの有利が好きだというのだ。暖かく見守ってやるしかなかろう。
ただ、釘を刺しておくのだけは忘れない村田だった。
「…渋谷を泣かせるようなことがあれば、筆舌に尽くしがたい復讐をしますよ?」
「喜びの涙以外を流させるつもりはない」
囁く声に、打てば響くような返答が寄越される。
調子の良すぎる言葉ではあったが、意外と不快感は無かった。
『これはきっと、こいつなりの《誓い》なんだろうな』
簡単な事ではないとちゃんと理解はしていても、仮定であっても《泣かせるかもしれない》とは言わない。それは有利にも通じる潔さであった。
『ふぅん…』
村田は何だか楽しいような心地になって、足取りを軽くするのだった。
* * *
「るるるんるんるん、るるるんるんるん、るる、るんるるん…るーん♪」
花の子ル○ルンを知っている世代の主婦、渋谷美子は上機嫌で茹でたジャガイモを潰していく。ご馳走の準備は万端で、量も育ち盛りの大学生・高校生の為にたっぷりと用意している。余ったら余ったで冷凍してお弁当行きにするので無駄はない。
ケーキだってついぞ無いほどの焼き上がりを見せており、デコレーションも見事に決まった。
「うっふふぅ〜。これでゆーちゃんも大満足ね!」
有利の様子だと今日が自分の誕生日だという意識は全くなさそうだったから、きっと帰って来るなり《ナニこの御馳走!?》と驚くはずだ。マネージャーの村田には《是非パーティーに参加して》と誘っているのだが、彼が今日送ってきたメールでも、気付いている様子はなかった。
『17歳おめでとう、ゆーちゃん!』
玄関を開けるなりそう迎えてあげたら、きっと照れくさそうに笑うに違いない。
ピーンポーン
「あら?誰かしら」
宅急便で何かを注文した覚えはないし、回覧板も今朝回したばかりだ。家族が帰還してきた時にはそれぞれの鍵で開けるし…。
「こんばんは、シブヤさんいらっしゃいますか?」
《…あらっ!?》声を聞くなり、美子はぞくぞくっと背筋を震わせた。
決して悪寒が走ったというわけではない。脊柱に沿って得も言えぬ快感が奔ったのだ。
『んま…なんて美声っ!!』
爽やかで伸びのある若々しい青年の声に、美子はうきうきと玄関に向かった。《何時までも若い母》をお誕生日会で演出すべく、別に外出もしないのにめかし込んでいた良かった。
『でも、あんまり期待しておいて、顔を見た途端にゲンナリってのはやぁねぇ』
この美声が散々な顔から出ていたりしたら、本人のせいではないと分かっていても暴れ出しそうだ。
勝手な不安と期待感に胸を弾ませながら鍵を開けると、そこに現れたのは…。
華麗な王子様だった。
「んまぁああ……っ!!」
見上げるような長身は実に均整がとれており、さり気なく仕立ての良いシャツとストレートパンツは逞しい体つきを更に魅力的なものにみせている。
一見派手ではないのだが見れば見るほど味が出るような…それでいてスルメとの関連性は汲み取れない、西洋的な美貌だ。男性らしい爽やかな美しさな為、《美人》というよりは《端正》と評する方がぴったりと当てはまるようだ。
ダークブラウンの髪はさらりと風に靡き、琥珀色の澄んだ瞳には銀色の光彩が星のように瞬いている。
これは正しく、王子様であるに違いない。
少なくとも、ニュースなどで見かける《え?王子様?これが?》とガッカリしてしまう王族連中に比べたら、美子の中では実に完璧な王子様だ。
ただ、少々乙女思考とはいえ美子も母親だ。見惚れていた青年の背中におんぶされる息子の姿を見つけると、血の気を引かせて踏み出していった。
「ゆ、ゆーちゃんっ!どうしたのっ!?」
「軽い熱射病です。送らせて頂きました。あ…申し遅れましたが、俺はユーリ君がドイツ留学をしている間にお世話になりましたコンラート・ウェラーと申します」
「んまっ!んまぁあ、お世話しちゃったりしたのゆーちゃんっ!?」
「お世話になったのは俺の方だよ。つか…コンラッド、もう降ろしてくれたって良いだろ!?」
涙目になって恥ずかしがる有利は我が息子ながら何とも苛め甲斐のある可愛さである。勿論、可愛い息子に虐待など絶対にしないが、何かと言えば弟をからかう勝利の気持ちもよく分かるのだ。
『なんかこう…真っ直ぐで一生懸命なトコを転がしてあげたくなるのよねぇ…』
Sの血をうずうずさせながらも、美子は我に返って息子と恩人を家の中に招き入れた。招いていた村田も後ろからついてくる。
「美子さん、メール見られなかったんですか?」
「あら、健ちゃんゴメンなさいっ!料理に熱中していたのよ〜。事情を教えてくれてたのね?」
「つか、お袋…村田。なんでメル番なんか知ってんの?」
あまりにも親しげな母と友人の態度に、有利はげんなりとした顔をしている。
「やぁねぇ。ゆーちゃんのことを知りたかったら、ゆーちゃん本人に聞くよりも健ちゃんに聞いた方が早いじゃない」
「俺専門の情報屋かよ!?」
「やだなぁ渋谷。君専門のマニアと言って欲しいね」
「それは情報屋よりも上なのか?」
「少なくとも正確ではある」
口で村田に勝つことは諦めたのか、有利はコンラートの背から降りると溜息をつきつつ靴を脱ぐ。少しふらついてはいるが、確かにそれほど酷い症状ではなさそうだ。
「ゆーちゃん、食欲は大丈夫」
「んー?少し休めば大丈夫だと思うよ?」
「うっふふぅ!良かったっ!!」
有利は不思議そうにきょとんとしていたが、美子に引っ張られるようにして居間に向かうと、卓上に所狭しと置かれたご馳走の数々や華やかな飾り付けに更にきょととんと小首を傾げた。
「え…?お袋、コンラッドか来ることもう知ってたの?」
「何言ってるのよゆーちゃん。あなたが健ちゃんにも話してなかったから、ママだってコンラートさんとは今日が初対面よ?」
「じゃあ、どうしてこんな大ご馳走…」
言いかけて、大粒の瞳を更に開大させた様子は我が息子ながら抱きしめたくなるくらいにキュートだ。
「今日って…俺の誕生日だっけ!?」
「えぇ…っ!?」
どうしたことか、一緒にいたコンラートがえらく驚いている。そんなに予想外だったのだろうか?
「うふふぅ。相変わらず豪快な忘れっぷりね。そーよ、ゆーちゃん。17歳おめでとうっ!!」
言うなりパーンパーンと傍らにあったクラッカーを連発させれば、有利は頬を染めて照れてしまう。
「お…お袋ぉ…。気持ちはありがたいけど、高校生にもなった息子の為にここまで気合い入れなくて良いって…」
「何言ってるのゆーちゃんっ!可愛い息子の誕生日を祝わなくて、ママは何を祝えっていうの?立川辺りでヴァカンス過ごしてるような成人の誕生日より、よっぽどママにとっては大事よっ!!」
「そうだよ、ユーリ」
コンラートは綺麗な微笑みを浮かべていたが、どういうわけか…その表情には少々複雑なものも感じさせる。
「君の生まれた日だもの。ご家族や大切な人たちにとっては、何物にも代え難い記念日だよ?勿論、俺にとってもね」
「コンラッド…」
「なーんて…俺も自分の誕生日忘れてたクチだから、あまり大きな事も言えないんだけどね」
ぺろりとちいさく舌を出してみせるコンラートに、美子はもしやと思って声を掛けてみる。この流れから言って、ひょっとして…。
「コンラート君、あなたもしかして…今日がお誕生日?」
「実はそうなんです」
「えぇえええええ……っ!?」
今度は有利が驚愕する番だ。
「えー…先にきいときゃ良かったぁあ…。プレゼントなんにも用意してないよぉ」
「俺は引っ越しの挨拶を兼ねてドイツ土産を持ってきてはいるけど、バースデープレゼントとしては弱いな…。地元の銘菓だからね」
ドイツにも地方産銘菓があるのか。
バウムクーヘン煎餅?それともシャウエッセン饅頭とかだろうか?
「銘菓上等だよ!それよか…俺のなんにもあげるもんが無いって事の方が致命的だよ〜。こんな事ならもーちょっと個人情報やりとりしとけば良かったーっ!」
有利はがっくりと廊下にしゃがみ込んでしまった。どうやら熱射病で奪われた体力が自分へのがっかり感によって倍増してしまったらしい。
* * *
「顔を上げて、ユーリ…ユーリとこうして会っていられることが、俺にとっては一番の幸せだよ?それとも…ユーリは俺と会うことよりプレゼントがあるかどうかの方が重要?」
「ないないっ!」
ガバっと顔を上げて抗弁すれば、答えを待ち受けていたようにコンラートがしゃがみ、汗ばんだ前髪を優しい手つきで掻き上げてくれた。
「だろ?お互いに誕生日を知らなかったのは、それを大事にしてなかったからじゃなくて、僅かな時間の中でお互いにどんな暮らしをしてたのか、どういう気持ちでいたのかを喋りまくっていたからだもの」
「そーいえばそーでした…」
電話越しに夢中になってお喋りしている最中に、たまたまそういう流れにならなかっただけで、お祝いしたい気持ちはないわけでは決してない。
お互いに、お互いの存在そのものがデータよりも興味深過ぎただけなのだ。
「そうよ、ゆーちゃん。こうして同じ日に生まれて、出会えたことの方がよっぽど大事!とっととシャワーを浴びてスッキリしてらっしゃい?お部屋にママからのプレゼントがあるから、あれを着てコンラートさんと楽しくパーティーをすれば、そんな屈託なんか吹っ飛んじゃうわよ!」
美子にバァンと勢いよく背中を叩かれると、有利にも喝が入った。
「そーだよな!」
ぱぁっと顔いっぱいで笑うと、そこにいたみんなが同じように笑顔になる。
この季節に相応しい、カラリと晴れやかな笑みだ。
「…ってことは、お袋…コンラッドも一緒に食べて良いんだよね?」
「勿論よぉ。帰るなんて言いだしても、トラップを展開して足止めするわよ」
「どこのアーミーですか、母…」
そんなことを言いつつも、母に感謝せずにはいられない有利だった。
だから…風呂場に向かう道すがら、はにかみつつも《お袋、ありがとうね》と囁いたのだった。
瞬きと見分けの付かない下手くそなウインクとVサインに、親子の地を色濃く感じる有利であった。
* * *
からりからからキラキラリ
渋谷家からはそんな印象を受ける。
『よく似た親子だなぁ…』
感嘆するような思いで、コンラートは渋谷家の母子に暖かな眼差しを送った。
なるほど、有利が太陽みたいなよい子に育つはずだ。
「お母さん、ありがとうございます」
「良いのよ〜。気にせずモリッモリ食べてね?腕によりを掛けて、たっぷり作ってあるんだから!」
色々な意味を込めて響かせた美声に、美子は満開笑みで答えた。
それはパーティーへの参加限定の返事ではあったけれども、有利がお風呂に向かった隙に囁かれた言葉は、それ以上の意味を持っていた。
『不束な息子ですけど、末永く宜しくお願いしますね?』
コンラートがやはり満開の笑みで頷いたことは言うまでもない。
ハッピーバースデーユーリ!
これからの誕生日の全てが、コンラートと共にお祝いできますように!
おしまい
あとがき
夏が終わっちゃったーっっ!!
…と、叫んでいる今日は2010年9月24日です(汗)
うっすらと脳裏に「あ〜夏の間に続き書かなきゃ〜」とは思っていたのですが、気が付けば涼しい季節に突入。
諦めて、秋以降のお話を書こうと思います。
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