〜りっき様のリクエスト〜
「もてもて☆やきもち」
「ユーリが最近、地球でモテモテらしいんだ」
「へー」
頼まれていた仕事を片づけ、意気揚々とウェラー卿コンラートのもとを訪れたヨザックは、ちょっぴり嫌な予感を覚えた。約束の上等なワインと金一封を貰ったら、とっととトンズラすべきだろう。
しかし、《大変だねー。んじゃ、俺はここで…》と帰りかけたところをがっしりと肩を掴んで止められる。
「おい。俺の心痛を無視する気か」
「いえいえいえ〜。元隊長想いの元部下ですもの。そんなこたァありませんよ?でもねェ…やっぱこういうのって、今の部下にでも打ち明けた方が…」
「そうか、聞いてくれるか元部下よ」
「あ〜…俺、そういうフレーズ猊下に聞いたことあるよ。ジャ○アニズムっていうんだっけ?」
都合の良いときだけ《心の友よ》と呼んで歓待し、解決出来ない不満な事態が起こったときには、《取りあえずグリ江を殴ろうぜ》と欲望の捌け口にされてしまう。
『ケツを貸す方の捌け口だったら歓迎するんですが…なんて言ったら、真一文字に口を開かれそうだしな』
たらりと汗を垂らしながら、ヨザックは仕方ないので椅子に腰掛けた。殺風景なコンラートの部屋は、座るものといえば椅子が一つとソファがあるきりだから、そこが嫌なら寝台に腰掛けるしかない。しかし、寝台に腰掛けると怒られる。
《ユーリが泊まったときに、お前の匂いが微かにでもあの方につくのが嫌だ》と我が儘を言うからだ。そんな匂いの嗅ぎわけが出来てしまう、警察犬よりも優秀な鼻の持ち主が時々気持ち悪い。ちなみに、普段から人並み以上に鼻は利くが、犬以上に利いてしまうのはユーリ限定だ。この男はユーリの残したパジャマを頼りに、脱走した彼を街の雑踏の中から見つけ出したという実績がある。
そんなコンラートでもヨザックが離れたりしないのは、幼馴染みとしての腐れ縁というのが第一ではあるが、やはりここにもジャ○アニズムの存在が認められる。《頻回に渡って多大な迷惑を被るのだが、千回に一度死にそうな極限状態で救われる》というターンを繰り返しているからだ。ジャイ○ンが映画の時には活躍するように、コンラートも国家の非常事態には生き生きと大活躍するのである。
何故って、ユーリに褒められるから。(←私利私欲)
致し方なく座ったヨザックに、コンラートは滔々と語った。
地球に於けるユーリの非常事態を…。
* * *
長い授業が終わって一息つき、さあ帰って野球の練習…と下駄箱を開けたところで、ユーリはげんなりした。隣の靴箱を開いてこちらは何の抵抗もなく靴を取りだした友人も、ちらりと覗き込んでは苦笑していた。
「う…また来た」
「大変だな〜渋谷。最近えらく多くね?」
高校の下駄箱を開けると、最近頻回に渡ってラブレターが入っている。最初はユーリだって喜んだ。《いよいよモテ期が来た!》《異常にモテる臣下で親友で野球仲間な男に、これでちょっとは自慢出来る!》…と。
しかし現実はしょっぱかった。何故かその手紙は悉く男からなのである。先輩からは《可愛い》同級生からは《良い奴》下級生からは《親しみやすい》といったお言葉が寄せられ、最後には必ず、《君が好きです。俺はホモではありません。君だけが特別なんです》と告げられる。
《気持ちは嬉しいけど、そう言う意味で付き合ったりは出来ないから、友達になって下さい》と頼むと、みんなお友達にはなってくれる。だけど、週末毎に《友達だから一緒に遊びたい》といって、あからさまなデートコースに誘われるのは勘弁して欲しい。どんなコースを辿っても、最後は何故か深夜の公園を経てホテルにゴーしようとするのだ。何回か付き合わされたがいつもそのコースから逃れるために全力疾走で逃げ出すので、流石のユーリも懲りた。
どうやらこの現象には、《禁忌の箱》を始末して、それと半ば癒合していた眞王が力を失ったことが関係しているらしい。元々ユーリにはそういう《男を魅了する魔力》が備わっていたのだという。ツェツィーリエにも同様の魔力が備わっているから、時折突発的に強い魔力を持った者に現れるのだろう。しかし、その為にユーリが男相手の性行為に励んでしまうと、地球から離れられなくなって眞魔国に居着かなくなると考えた眞王がストッパーを掛けていた。それが今は外れてしまったのだ。
そんなわけで魅力モロ出し状態のユーリは、無駄にモテモテ人生を送ることになっているのである。
《女を魅了する魔力》というのも存在するらしく、そっちだったら良かったのにと思ったりもしたのだが、よく考えると女の子に泣かれる方が辛いから、まだこちらの方が良いのだろうか?
「明日はバレンタインデーだろ?もっと凄いことになるんじゃねーの?」
「あぁあ〜…。困る〜マジで困る〜」
「モテる男は辛いねー」
「代わってやりてーよっ!」
クラスメイトの宮内は他人事だと思って、《ぎゃはは》と大笑いしている。友達甲斐のない奴だ。
「くそ〜…人ごとだと思って!」
「おいおい。俺に向かって唇尖らすなよ。たまにクラっと来ることあるから」
「マジ!?」
「なんかお前、フェロモン的な何か出してんじゃねーの?頼むから俺をアブノーマルな世界に導くなよ?」
「導きたくね〜。なー、お前くらいは真っ当でいてくれよ?やっぱそういう奴って大事だし!」
「へいへい。他の連中はヤバイもんな?」
「そーだよぉ〜。もー、信じらんねー」
悪態をつきながら歩いていくユーリに、宮内は複雑そうな笑みを浮かべていた。
* * *
『安心出来るポジション…か』
確かに今のユーリには必要な存在だろう。同性の全てから恋愛対象で見られたのでは疲れることこの上ないに違いない。
分かっているからこそ宮内もその位置に収まっているのだが、《愉快な友達》で居続けるには色々とハードルもあったりする。先ほどのようにじぃっと見られたりすると幾ら宮内でも変な気分になる。
ユーリが良い奴であるからこそ、宮内としては安心出来る友達の立場を死守したいのだから、寧ろそういった気持ちは包み隠さず伝えるようにしている。無駄にフェロモンを悶々と放出し続けているユーリにも自覚して貰って、少しでも流出を食い止めて欲しい。それがお互いのためだ。
「そういえば、コンラッドさんって元気なの?」
「うん。元気元気。バレンタインデーには遊びに来るとか言ってたぜ?」
コンラッドというのはユーリのお友達というか、ユーリを可愛がってくれる親戚のような人らしい。まだ会ったことはないのだが、ユーリが言うにはその人だけは《まとも》なのだという。ユーリの親戚連中はこの高校の男共に輪を掛けたような熱烈さで可愛がってくるらしく、度を超した盲愛というか猛愛に、本人は時折辟易してしまうらしいのだが、そのコンラッドだけは中立の立場から物を言い、ユーリを可愛がるけれども、間違えたらちゃんと叱ってくれるのだという。
昔ながらの雷親父のように怒ってくれるグウェンダルという人も別にいて、そちらはそちらで敬愛しているそうだが、親しみやすさという点ではコンラッドがダントツらしい。
ユーリがあんまり親しげにコンラッドのことを話すものだから、宮内はすっかり彼のことに詳しくなってしまった。髪はダークブラウンで後ろ髪は短く刈り詰めているが、前髪は少し長くてさらさらしているそうだ。瞳は澄んだ琥珀色をしており、笑顔になるとキララっとばかりに銀色の光彩が煌めくらしい。まるで少女漫画のようだ。そして爽やかな口調と端正な面差し、立ち居振る舞いが優雅で、自然な動作で庇ってくれる上、スポーツ万能で声までうっとりと聞き惚れるほどの美声。
唯一の欠点は異常にギャグが寒いことらしいが、寧ろそのくらいの欠点があるからこそ、微笑ましい存在感を醸し出せているのかも知れない。それ以外は、話を聞くだけでも、《親しみ?ナニソレ》と言いたくなるくらいのリア充君か出来杉君かというところだ。
「明日授業参観だろ?学校に来るとか言ってた」
「へぇ、そりゃ楽しみ」
ユーリの話は親しみのあまりの誇大広告に近い物がありそうだが、その半分でも格好良ければクラスの女達は大騒ぎだろう。《細身の若い外国人男性》というだけで、2割り増し格好良く見えるものだし、折しも季節は冬だ。長身の男性がスーツの上にコートを羽織っていると、それだけでまた3割は格好良くなる。
宮内は好奇心を膨らましながら翌日を待った。
* * *
「はぁ〜るばる、来ったっぜっ埼ぁい玉県〜♪」
「なんだその下らない歌は」
「やーん。グリ江ショックぅ〜。隊長に付き合って、苦しい思いしてここまで来たのにぃ〜」
そう。大変だった。
今は陽気に歌ったりしているが、鍛え上げた鋼鉄の肉体を誇るグリエ・ヨザックをもってしても、フォンカーベルニコフ卿アニシナの作ったトンデモ魔導装置を使っての地球航路はそりゃあしんどかったのだ。恋心で知覚がどうにかなっている化け物と一緒にしないで欲しい。
眞王が力を失ってからと言うもの、世界を越えるにはユーリの力が必須だ。しかし、あまり頻回使用して疲れさせてはいけないとコンラートが主張するもので、以前地球にあるという《鏡の水底》を探しに行ったときに利用した装置を使ったのだが、魔力持ちの連中は更に凄惨な事になっているだろう。装置が噴射されるときの《ぎゃぁあああああっっっ!!》という断末魔に似た叫び声が忘れられない。あれは現在の上司の声だったような気がする。弟の我が儘を食い止められなかった被害を、痛いほど我が身に受けたらしい。
今回の地球航路は、100%コンラートの我が儘で構成されている。優しさは1割も含まれていない。旅の理由は、《ユーリを狙う連中に釘を打ち、場合によってはこちらに目を向けさせる》ことである。
《こちらに目を向けさせる》…その意味するところは、コンラートとヨザックを使った誘惑だ。
確かにコンラートセレクト(お財布はボブ持ち)のスーツやコートは二人にぴったりと似合っており、どこか危うげな魅力を湛えた姿は女性だけではなく男共をも魅了する。先程から道行くオッサンやお爺さんの眼差しまでが妙に熱い。生きた年数で言えば、魔族的には若手にはいるのだろうが…。見た目年齢って大事だ。
ユーリに通う高校に入っていくと、その興奮は最高潮に達した。
「えーーっ!?う、うちの学校の参観ですか?て、テレビとか回ってるんですか?」
「芸能人の方じゃない?え?モデルでもない?嘘嘘っ!一般人ではあり得ないレベルでオーラ放ってますよ!?輝きが留まるところを知りませんよーっ!?」
事務員さん達が恐慌状態に陥り、騒ぎを聞きつけた管理職がぽぅっと頬を染め(いずれも50代〜60代のオッサン、オバハンだ。まあ、魔族的には子ども年齢だが)、ユーリが駆けつけるまでその騒動は続いた。
「コンラッドーっ!」
「やあ、ユーリ。こちらで会うのは久し振りですね。高校生活、滞りなくお過ごしですか?」
「もー、滞りまくりだよっ!前にも話したろ?何か最近、妙にラブレターとか貰うんだよ。今日なんかバレンタインデーでさ、女の子からは義理チョコしか貰えないのに、男から凄ェ気合いの入った手作りチョコとか貰うんだよ!?」
「ははは、ホワイトチョコは特に危険ですね。半生は特に」
「怖いコト言うなよっ!」
「いやあ、義理チョコなんて言ってますけど、女心って可愛いものですよ?貰ったのちゃんと見ました?実はユーリのだけ星形がハート形になってるとかありません?」
「ないよっ!全部一緒だったもーんっ!」
「ふふ」
実にいい人みたいな顔をしている。まるで《俺は全く害のない、気の良いお兄さんです》と言いたげな表情と物言いに、ヨザックはバリバリと背中を掻いた。
「あ、ヨザックもいらっしゃい!でも、二人も運んで大丈夫だったの?」
「ははは…。何人か死にか…」
《ドス…っ!》ユーリの目に入らない角度で、肋骨の間隙に手刀を入れられた。一瞬息が止まるほど痛かった。本気で友達止めて良いだろうか?
「大丈夫…でし、た……」
「そう?アニシナさんも装置改良したのかなー」
改良はした。なんか拙い方向に。
おかげでローリングする機体の中で、無駄に無重力体験なんかしてしまった。ヨザックとしては別に、空中で液体がまん丸になることなんか知らなくて良かった。しかもそれ、ヨザックの涙と胃液だし。
「それにしても、二人とも格好良いな〜。いつもの服装も良いけどさ、スーツも新鮮!」
「ふふ…。俺とヨザック、どっちが格好良いですか?」
ひっ。
《止めて。そういうフリ止めてぇ〜っ!》心で絶叫をあげるヨザックの横で、ユーリは《んー…と》と気楽な感じで考えている。
『あなたの物言い一つで、俺の運命が決まるんですけど…っ!』
《ひぃいい》と死にそうな心地で小刻みに身体を震わせていると、ユーリはにぱっと笑ってヨザックを見た。
「ん。やっぱヨザックかな!」
《死んだっ!俺死んだっ!即死決定っ!!》ヨザックは慄然とした。野生の獣がヨザックを狩ろうと、牙を剥いたのが分かったからだ。
「やだなぁ、そんなに俺はご不満?」
どこか妖しげな雰囲気を醸し出して耳朶に甘い声を注ぎ込めば、ユーリは見る間にぽぽっと頬を染めて首を竦めた。
「不満じゃないよー。ただ、コンラッドはいつも軍服だから、なんかスーツでもかっちりしてる分、想定の範囲内だけどさ、ヨザックは普段がワイルドだからスーツが似合うってのが意外性があるんだよね」
「ほほう…普段はワイルドだとさ。良かったな、ヨザ」
「はははははは…」
ヨザックは乾いた笑いを漏らすほかない。
『陛下、真にワイルドで野生の王国な男が至近距離にいます。ワイルド扱いして頂いたのはありがたいですが…いや、ありがた迷惑ですが、このままでは俺…喰い殺されそうですっ!!』
このまま《よよ…》と、ハンカチ噛みしめながら泣き崩れていいだろうか?
「あ〜、でも…そうだな。あんたの格好良いトコは見てくれだけだと分からないよな。外見だけじゃなくってさ、一番辛いときに一番欲しい言葉をくれたりとか、そういうトコが…マジで格好良いよ?」
「ユーリ…」
《ふ〜たりのために〜♪せ〜かいはあるのぉ〜♪》…そんな歌が流れてきそうな雰囲気の中、果敢に攻めてきたのはこの学校の女子生徒だ。
「ねえねえ、渋谷君。こちらの素敵な人たちって、渋谷君のお知り合い?」
肉食系の雰囲気をびしばし漂わせている女の子達が近寄ってくると、少し気後れしていた面々も近寄ってくる。男子連中も遠目に囲んでいるような感じだ。
「お初にお目に掛かります。我らはユーリ様にお仕えする者です」
コンラートが優雅な礼を決めると、女の子達は絶叫に近い歓声を上げてぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「えーっ!?ナニソレナニソレっ!!」
「ぎゃひーっ!なんか淫靡な響きぃ〜っ!執事とか!?」
ヨザックはコンラートの目配せを受けてするりと輪を抜けていくと、教室の棚の前に集まっていた男連中のところに寄っていく。遅ればせながら説明すれば、言語についてはアニシナ製の装置を経由して遣り取りをしている。その元となった魔族は言わずもがな…ミイラになりそうなほど魔力を吸い取られて転がっているはずである。アニシナにツンツンされた挙げ句、《返事がない。唯の屍のようだ》とか言われているに違いない。
「ねえねえ、ユーリ君と仲良くしてくれてるぅ〜?」
「あー、まぁ、そっすね」
親しげに話しかけていくと、そこは懐に入り込むのは上手なお庭番のこと、会話は楽しく盛り上がって、普段は喋らないだろうと思われるところまで話が進む。その中で、ユーリを執拗に狙っている上級生が居ることが分かった。
コンラートをちらりと見れば、女の子連中からやはり情報を得たらしいコンラートが目線で伝えてくる。《法に触れない範疇で始末しろ》…と。
怒れる獅子に噛みつかれるよりはマシとばかりに教室を出て行ったヨザックは、結局《害虫駆除》で半日程度を過ごすことになった。
* * *
『えーと…』
宮内は少々首を捻っていた。
ユーリの話だと、コンラッドという人は親戚連中の中で唯一《まとも》な人だったはずだ。
だが…ユーリに向ける眼差しがとろけるように優しいのとは裏腹に、周囲に対する威嚇がさり気なくも容赦なく厳しい。宮内のことも《こいつ良い奴なんだ〜》と紹介して貰ったところ、《これからもユーリをヨロシクね》とニッコリ微笑みながら、ユーリの肩を抱き寄せていた。まるで、《俺のユーリに害にならない程度にヨロシクね》と言われているような気がする。
ユーリはユーリで、他の男にそんなことをされたら《うひぃ》と騒いで嫌がりそうなものなのに、コンラッドに対してだけは異様に距離感が近い。向ける眼差しだって親しみいっぱいで、何もかもを共有したいという風に見つめ合っている。
周囲で物欲しそうに眺めていた男連中が、一人、また一人と立ち去っていくのが分かった。その手に持っているのは気合いの入った本気チョコ。手渡ししようとしていたのを断念したに違いない。先に渡していた連中も、明らかにしょんぼりしている。
『…………渋谷、俺…頑張るよ』
自分だけは本当に《まとも》な友達でいようと、宮内は自分に言い聞かせた。
* * *
「いやー。すっかりお邪魔しちゃいましたね」
「盛り上がってたねー。なんか芸能人とか来たみたいな騒ぎだったね」
学校の帰り道、コンラッドと連れだったユーリは意気揚々と帰路に就いた。コンラッドがいてくれたせいか、靴箱や机に入っていた本気チョコを丁重にお返しする行程がスムーズに運んだのだ。みんなどこか怯えたような顔をして、《君のことは諦めるよ》と言ってくれた。《友達で良いから!》と縋り付いてくる手合いも、今日は全くいなくて吃驚した。
「全部コンラッドのおかげだよっ!」
「いえ…うーん…そんなに喜んでおられると、困るなぁ…」
「どうしたの?」
何やらモジモジしているコンラッドだったが、何度か促すとばつが悪そうな顔をして荷物の中から小さな包みを取りだした。
「チョコレートなんですが…あんなに他の子のを断った後に、俺だけ渡すなんて卑怯ですかね?」
「えー?これ…コンラッドが作ったの?」
「いらない…かな?」
上目遣いに尋ねてくる顔が妙に可愛くて、とても断るコトなんてできない。
「ううん…。貰う。ありがとうね。友チョコってやつかな?」
「ええ……………………まあ、そんなトコです」
「へへ。じゃあ、俺もホワイトデーにはお返しするよ」
「じゃあ遊園地デートが良いです」
はにかんでいたわりに、異様に提案が速い。
お笑い芸人なら《速ェよ!》と突っ込むところだ。
「え?」
「こちらに来てから偶然、ボブにチケットを頂いたんです。宿泊付きですから、ゆっくり遊べますよ?」
「え〜?でも、また奢って貰ったんじゃおかしくね?」
「ははは。チケットはタダですから。俺の負担はありませんよ。なんなら、遊園地の中でマシュマロとかホワイトチョコのお土産を買って下さい」
ぐいぐい押してくる。お返しの仕方まで提案していたのだが、ユーリは特に違和感を覚えなかった。コンラッドに対して疑いなど欠片も持たないのだ。
「そっか。それならお返しになるかな?」
「楽しみですね!また来ます」
《また来る》ことがどれだけ周囲の甚大な被害を招くのか、ユーリは知らない。
「へへー。俺も楽しみっ!男二人で遊園地とかちょっとサムいけど、気兼ねなくてそれはそれでいいよね」
「そうですとも」
二人は夕陽に向かって《うふふ》《あはは》と歩いていく。
二人はすっかり忘れていた。
こちらの地理に疎いグリエ・ヨザックを、学校内に思いっ切り置き去りにしていることに…。
おしまい
あとがき
腹黒次男ネタ、なんか続いているような…。
そしてヨザック不幸ネタも続いているような…。
次回はどういったお話になるか分かりませんが、たまにはヨザックにもいい目を見させてやりたいものです。(汗)
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