〜りっき様のリクエスト〜
「もてもて☆やきもち」−2









『おかしい…』

 焦れる気持ちを抑えて、コンラートは笑顔を保ち続ける。おかしな顔をしてユーリを不審な気持ちにさせたくないからだ。
 しかし懸念はどうしたって過ぎる。

「コンラッド、次はこっち〜」
「はい、ユーリ。ああ…これも楽しそうですね。ですが、そろそろ絶叫系が続き過ぎですよ?身体に毒だ。少し落ち着いてホーンテッドマンションにでも入りませんか?」
「うん、後でね。この遊園地の絶叫系制覇したらね」
「そうですか。はは、ユーリは絶叫系大好きですね」
「うん!」

 《あーもー畜生、絶叫系を“俺”に換えてーよ!》と思いつつも、にこにこ顔を崩さないまま後に付いていく。
 約束通りホワイトデーに遊園地デートに誘い出せたまでは良いが、コンラートはなかなかユーリをホーンテッドマンションに連れ込めずにいた。

 ユーリはビビリではないし、眞魔国で奇怪な生物には馴れているから今更普通の展示で驚くことはないだろう。だが、あのような環境下で急に電灯の障害が起こり、真っ暗闇の中に二人きりで取り残されたらどうだろう?しかもそこで、リアルに呻き声を上げる何かが触れてこようとしたら?そりゃもうコンラートに縋り付いて、生まれたての仔うさぎみたいにぷるぷるするに違いない。

 コンラートは妄想家だが、今回のこれは《こうなったら良いな》という願望ではなく、既に予定された未来だ。がちむちボディの心の友(笑)が、スタンバイOK状態で待機しているのだ。(職員如きに捕まるようなヘマもすまい)
しかしコンラートの方が上手く連れ込めずにいる。

『いかん…このままではヨザをフルボッコにして憂さ晴らしするターンに入ってしまうっ!』

 いい加減その流れは飽きた。(←えー…)

 何とか妄想を形にするプライスレスな幸せを手に入れたいと思いながらジェットコースターに乗り込むと、《カンカンカン…》と機体が空高く引き上げられていき、ゆっくりと急激加速への期待感と恐怖感が増していく。

 実のところ、コンラートはジェットコースターなるものが嫌いだ。自分でコントロール出来ない機械の塊がユーリとコンラートを固定したまま移動していくからだ。万が一のことがあっても、拘束されているから助けられないではないか。

 けれどこの日、コンラートはジェットコースターに対する素晴らしい思い出を作ることになる。

「コンラッド…」
「なんです?」

 さあもうすぐ頂点というところで、ユーリが声を掛けてくる。声が震えているのはどうしてだろう?スタツア慣れしているし、先程までの絶叫系では大笑いしていたから怖いと言うことはないだろう。ひょっとしておしっこに行きたくなったのか?どうしよう、こんな場所で放尿プレイ(←プレイじゃねーよっ!)などしたら、二度と遊園地には行きたくないとか言い出すかも知れない。

 だが、下半身をおしっこで濡らして、羞恥で真っ赤になるユーリは見たい。(←おい…っ!!)
 激しい二律背反は、ジュリアの魂を地球に運べと言われたとき並の葛藤をもたらした。(←ェええええええぇェぇぇぇーーーっ!?)

 けれど最終的には、大切なユーリに恥をかかせない方法を選ぶことにした。いざとなったら、ユーリのズボンの中に手を突っ込んで、おちんちんの付け根をしっかり握ってやろう。《コンラッドのバカーっっ!!》と絶叫される可能性大だが、放尿させるよりはコンラートに責任が転嫁される。

『ふ…。ユーリ、あなたに恨まれることは俺の心を八つ裂きにするでしょう。ですが…俺は敢えてあなたのおちんちんを握る…っ!あなたにどれほど恨まれようとも、それがあなたの為になるなら…っ!!』

 傍迷惑な自己犠牲は、幸いにして発揮されることはなかった。
 二人と社会にとって有り難い話であった。
 なんせ、このジェットコースターは下降の瞬間に自動撮影されていて、出口で《写真を買わないか》と持ちかけられるのだ。複数の写真におちんちんを握られたユーリの映像が映っているのは問題だろう。口封じ、目つぶしとして、殺さなくてはならない人間が増えてしまう。

「コンラッド…俺……っ!」

 ガコン…っ!

 機体が急激な加速を始めた瞬間、ユーリは眞魔国語で絶叫した。

「あんたのことが好きだーっっっ!!!」 
「ェええええええぇェぇぇぇーーーっ!?」

驚愕の中で、コンラートまで一緒になって絶叫する。
 叫びすぎてふらふらになりながら降りてきたコンラートだったが、即座にユーリを抱えると、全速力で建物の隙間に連れ込んで、背骨が本気で鯖折りになりそうな勢いで抱きしめる。

「ユーリ…ユーリ…愛していますっ!ずっとお慕い申し上げておりました…っ!」
「は…はは…」

 まだ真っ赤な頬のままで、少し気が抜けたように…それでも嬉しそうにユーリが微笑む。ああ…この人がコンラートのものななったのか。ちょろちょろと姑息な手段で接触を楽しもうとしていたコンラートに対して、何と雄々しい告白だったろうか?

「嬉しいです…。本当は絶叫系マシンは苦手だったんですが、これからは乗るたびにあなたの告白を思い出して、絶頂を味わえそうです」

 今度から、乗るときにはコンドームがいりそうだ。

「えへへ…。あの告白方法教えてくれたの、グリ江ちゃんなんだ」
「え…?」
「あんたに告白したくて悩んでたんだけど、あんたは俺のこと凄く好きだって教えてくれて、《あの人はあなたを大切にし過ぎて手が出せないから、どうか恥ずかしくても、告白をしてあげて下さい》って言われたんだよ。半信半疑だったし、恥ずかしくてなかなか言い出せなくて、絶叫系たくさん付き合わせてゴメンね?」

 それでは、絶叫系に乗り込むたびに、《言うぞ…っ!》と心に誓っていてくれたのか。
 ああ…やはりこれから絶叫系に乗るときには終始悶絶してしまいそうだ。

「ユーリ…っ!この遊園地に附属したホテルをとってあります。《手違いでダブルを取ってしまいました》なんて姑息なことをしようと思っていたんですが、意図的にそうしたと分かった上で、俺と泊まって下さいますか?」
「…うん」

 こくんと頷く顔の何と可愛いことだろう。
 コンラートは天にも昇る気持ちで、大切な天使を抱きしめた。

 今回に限っては、ヨザが望む限りの良い酒を浴びるほど呑ませてやろうと心に誓いながら。


おしまい




あとがき


 あれだけ虐げられても、グリ江ちゃんは元上司と魔王陛下の為に頑張ります。
 何だかんだ言って、元上司のことも好きだからです。
 決して、後でフルボッコにされるのが嫌だったから成分が100%を占めていたからではありません。好意も5%くらいはありました。