「ユーリ?」

 起こしてしまったのかと心配しましたが、そういうわけではないようです。

 黒うさぎのまぶたはぴったりと合わさっていましたし、息づかいも眠っているとき独特のリズムです。

 おそらく寝ぼけているのでしょう。

「コンラッド…」

 黒うさぎの声が、慕わしげに響くと茶うさぎの頬がふわりとほぐれます。

「コンラッド…俺たち……ずぅっと、一緒にいようね……どこまでも…いつまでも、一緒にいようねぇ……」

 むにゃむにゃと呟かれるその言葉が、茶うさぎの心に暖かい波のように…ひたひたと沁みてきます。

「ずぅっと…ずうっとね……約…束………」

 すぅ…

 すぅ……

 再び深い眠りに落ちていったのでしょうか、黒うさぎはころりと寝返りを打った後は健やかな寝息をたてて静かになりました。

《ずっと》とか、《永遠》とか、そんな言葉がいくら約束しても殆ど守られることのない誓いなのだと…茶うさぎは知っています。

 だって、昔そう約束した友達はみんな死んでしまったからです(ヨザックは、そういう約束はしない男です)。

 けれど…どうしてでしょうか?

 その言葉が黒うさぎの唇から紡がれると、どうしてこんなにも心が沸き立つのでしょう。

 言葉自体が明るい星のように光を放ち、胸の中に入り込んで内側からきらきらと輝いているようです。

茶うさぎは不意に…自分の頬を伝う何かがぽたりと零れたのに気づきました。



「……涙…?」

 信じられません。

 茶うさぎは、黒うさぎの涙ならお風呂が一杯になるくらいの量を見ましたが、自分の涙などついぞ見た覚えがなかったからです。

 それに…こんなにも喜ばしい気持ちで泣いたこととなると、記憶の引き出しの何処をひっくり返しても存在しそうにありません。

 涙はぱたぱたと流れ落ち、その度に茶うさぎの心の痼(しこ)りを融かしていきます。

 茶うさぎはもう悲しくありません。

 怖くもありません。

 だって茶うさぎは大切なことに気づいたのです。

「俺は後ろ向きな考えに囚われ、ひたすら自分を哀れんでばかりいた…」

「それに…幾らちいさいと言ったって、ユーリがどう生きていくかはユーリ自身が決めることだ。どんなにユーリを思ってしたことであっても、俺が勝手に決めてしまうのはとても傲慢なやり方に違いない」

「そうだ…ああ、そうだとも。俺は俺が出来ることを精一杯やってみよう。決して後悔などしないように…二羽が一緒に幸せになれるように、俺は全ての力をつくしてやってみよう…」

 茶うさぎは誓いました。

 一体誰に誓ったのだと思いますか?   

神様に?

 それともお月様に?






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