2011年バレンタインリレー企画
〜コンとユーリ〜
「チョコレート、むちゅ〜〜っ」







 渋谷有利はチョコレートが大好きです。
 もう少し大きくなったらそんなに好きでもなくなるかも知れませんが、なんたって今は5歳ですから、男の子でもチョコレートが好きだって良いのです。

 ですから、毎年2月になるとお母さんやお婆ちゃんから、普段は食べられないような綺麗だったり特別だったりするチョコレートを貰えるので、いつもわくわくしています。

「楽しみだねぇ、コン!」
「ええ、そうですね。ユーリ」

 ふくく…っと、お布団に入った有利は、13日の今から楽しみでなりません。一緒にお布団に入ったコンにも強く同意を求めました。コンは有利のお臍くらいまでの大きさの、狐の縫いぐるみです。何処に行くのだって一緒の、大の仲良しですよ。

「コンにもあげるね?今年はママが、チョコレートケーキを焼いてくれるんだよ?すっごく美味しいんだって!」
「ですが、俺の口にチョコレートを入れてはいけませんよ?こないだもミコさんに怒られていたでしょう?」
「あー…」

 確かにそうです。あんまり美味しいソフトクリームを貰ったので、どうしてもコンにも味あわせてあげたくてお口に入れてやったら、酷くべしょべしょに汚れてしまって大変な事になったのです。これがまた苺ソフトだったものですから、ピンク色に染まった口元はピエロみたいでした。

「でもでも、すっごく美味しいのにコンと食べられないなんてヤダなぁ」
「俺はユーリが美味しそうに食べているのを見るだけで幸せですよ?」
「コンはむよくだね」
「いえいえ、ユーリとこうして傍にいられるだけで、とても贅沢なことです」
「もー、コンってばたらしの人みたい」
「たら…」

 コンの頭部にたらりと汗が滴りました。有利がこんな言葉を覚え出すなんて、幼稚園って刺激的な所だと思ったのです。侮れませんね。

「さ、楽しみな明日の為に眠りましょう?疲れている時に刺激物を食べると、鼻血が出ちゃうかも知れませんよ?」
「はーい」

 有利はよい子のお返事をしてぎゅうっとコンを抱きしめた。でも、眠りに落ちるまで数分間、ずっとどうやったらコンにチョコレートを食べさせてあげられるか、ずうっと考えていました。



*  *  * 




 翌日食べさせて貰ったチョコレートケーキは、最高に美味しいものでした!たっぷりとチョコレートクリームが載っている上に、中の生地まで幾重にも重ねたチョコレートの層があるのです。そして上にはアーモンドスライスを入れて薄くのばしたチョコレートが振りかけられていて、パリパリサクサクとっても美味しいです。
 
 有利は最後まで食べきるかどうかちょっと悩みましたが、テレビを見ていたら丁度良いアイデアが浮かびましたので、綺麗に平らげてしまいました。
 そして、お母さんに《歯を磨きなさい》と言われたのですが、《はーい》とよい子のお返事をしながらも、磨きませんでした。これは横着をしたからではないのですよ?とっておきのアイデアの為なのです。



*  *  * 




「ユーリ、ケーキは美味しかったですか?」
「うん、とっても美味しかったからコンでもあげる」
「え?でも…」

 小首を傾げるコンの顔をがっしりと捕まえて、有利はむちゅ〜っ!と熱烈なキスをしました。

「…ユーリ?」
「ね、チョコの味がしない?歯を磨かずに、匂いと味をとっといたんだ」

 これはテレビでお姉さんが男の人にしていた技です。テレビって、本当に色んな事を教えてくれますね。ただ、有利がガン見していたらお母さんがさり気なくチャンネルを変えてしまったので、もしかすると内容的には微妙なのかも知れませんけどね。

「とっても美味しかったです」
   
 コンはしみじみと、味わうようにそう言いました。



*  *  * 




「キスしましょうか?」
「それ、俺にチョコ喰わせようとしているだろ?」
「一緒に味わいたいんですよ。昔のことを思い出しながら…ね」

 有利から貰ったハート形の可愛いチョコレートを銜えて、婉然と微笑む男は甘い物が苦手だ。それでも、毎年バレンタインデーの季節が来ると両手を差し出して《チョコレートを下さい》と要求する。チョコ以外の贈り物をあげようとしたこともあるのだが、やはりそれとは別にチョコが欲しいらしい。

 でも、やはり毎年すぐに甘さに辟易して、こうしてユーリに口移しで食べさせようとする。

「そんなに甘いの苦手なら、いい加減チョコレート要求すんなよ」
「でも、あなたとのチョコレートキスは好きなんです」
「…もうっ!」

 罪作りなくらい綺麗に微笑む恋人が、昔は牧歌的な縫いぐるみの姿を借りていたなんて、今となっては信じられない。尤も、こういうとき以外は頻繁に《ああ、コンだ》と再確認できるのだけど。

『こういうコンラッドも好きだけどさ!』

 相変わらず優しくて一緒にいると楽しい彼。
 昔とはうってかわって、時々意地悪で一緒にいると《わーっ!》と叫びたくなるくらいドキドキさせられる彼。

 いずれも好きなのだから仕方ない。
 ユーリは覚悟を決めて、カシリと白い歯をチョコレートに立てる。甘い味がすぐに溶け出してきて、二人の唾液と混ざり合っていく。

 甘い甘いキス。
 
『昔、縫いぐるみのコンとしたのとどっちが甘いだろ?』

 そんな思い出も一緒にとかして、二人の夜は更けていった。



おしまい




あとがき

 特にリクエスト項目には上げていなかったのですが、なんかラブラブ話というとこのお話も入れたくなりました♪