もう空は白みはじめ、山々の合間から明るい朝日が一日の始まりを告げています。

「ユーリ…俺たち……夫婦になっちゃいましたね……」

 茶うさぎの目は、まだ何処か虚ろです。

「うん!」

 ユーリは茶うさぎの腕の中で満足げに微笑んでいます。

 そんな様子を見ていると、茶うさぎの心も次第に落ち着いてくるのでした。

「俺などが夫で…本当に良いですか?」

「うん、すっごく嬉しい!」

 バンザイして大喜びしているユーリを抱きしめて、茶うさぎは考えました。

 そのうちユーリは成長して、立派な成兎になることでしょう。

 その頃までには次第に自分たちの関係がどういう意味を持つのか理解することでしょう。

 その時、どんな結論をユーリが出すとしても…それを受け入れようと茶うさぎは決めていました。

 いままではどちらかというと、

『好きな雌うさぎが出来ても邪魔をしない』

 という後ろ向きな決意だったのですが、この度…仮にも《夫婦》という関係になった以上、少し心づもりも変わってきました。

『ユーリが成兎するまで…俺は精一杯、ユーリに好きでいてもらえるように頑張ろう。けれど…性的な意味で好きにさせるような真似だけはするまい』

 茶うさぎは爽やかそうな外見とは裏腹に、結構ねちっこく…癖になるようなエッチをすると評判のうさぎでした(←オイ…)。

 昔付き合っていた幾人かの貴族の淑女も、付き合っているうちに随分と淫蕩な性質に変わってしまい…

『貴方のせいよっ!…貴方ったら、麻薬みたいなんですもの……』

 …と、責められたこともありました。

 …若気の至りと言うべきでしょうか? 

 そんな手管を行為の意味も分からないユーリにすれば、きっと心づもりや理性などとは違うところで《好き》にさせてしまうことでしょう。

『ユーリは俺の大切な養い仔だ。ものごとの分別もできないうちに親愛と恋愛を踏み誤るようなことを助長してはいけない』

 そう硬く心に誓っている茶うさぎを見上げているうちに、ユーリは茶うさぎの肌や服を汚す血の痕に、今更ながらにはっとしました。それに…よくみれば顔色がとても悪いようです。

 
『そうだ…耳がくっついたって言っても、あれだけ血が出てたんだもん。それに、きっと物凄く痛かったに違いないや』

 ユーリは何とかして茶うさぎの痛みを和らげてあげたいと思いました。
 けれど、先程使った治癒の力はあんまり必至でやったものですから、もう一度やれと言われても使い方がよく分かりません。

『そうだ!』

 ユーリは昔、母さんうさぎにやって貰った《痛み止めの魔法》を思い出しました。

「ねぇ、コンラッド…少し屈んで?」

「え?」

 茶うさぎを少し屈ませると、ユーリはぐぃん…っと伸び上がって唇と唇を合わせました。

「……っ!?」

「痛いの…ちょっと楽になった?」

「え?痛いの…ですか?」

「あのね?昔、俺のお袋が教えてくれたやり方なんだけど…こうすると痛いのが少し楽になるんだよ。でも…黒うさぎ同士じゃないと効果ないのかな?ごめんな…俺のせいであんな酷い目にあったのに…俺、耳を治した魔法はまだどうやって使って良いのかよく分からないから……」

 茶うさぎがあんまり呆然としているものですから、まだ全然痛みは取れていないのだと思ったユーリは、うるりと瞳に涙をにじませました。

「いえいえいえいえいえ…物凄く効きました!痛かった事なんて空の彼方に吹っ飛んでしまいましたよ!!」

「本当?」

 力強い茶うさぎの言葉に、ユーリの涙に濡れた長い睫がしぱしぱと瞬き…ほわりと柔らかい笑みを浮かべます。

「いやもぅ…痛みやら何やら…凄い勢いで飛んでしまいました……」

 これはあながち嘘ではありません。
 本当に、柔らかくて甘いキスの味に…茶うさぎの痛みなど、あったことさえ忘れてしまうほどの勢いでどこかへ飛んでいってしまいました。

 ただ…問題なのは…………

 …一緒になって《理性》まで吹っ飛んでしまいそうになったことです。

 このままユーリを抱き寄せて深く口吻けたい…そんな衝動に駆られて、茶うさぎは
硬いはずの決意がぐらぐらと揺さぶられるのを感じました。

『俺は…本当にユーリが成長するまで理性を保つことが出来るんだろうか?』

 その答えは誰にも分かりません。

 お日様はそんな茶うさぎを励ますように、ぽかぽかと世界を照らしましたとさ。

 

おしまい




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 あとがき

 今回は黒うさの為に茶うさが何処まで身体を張るかというのと、その茶うさの行動によって黒うさが恐慌状態に陥るシーン書きたさに展開していった話でしたが、如何でしたでしょうか?
 
 そして、何となく流れで夫婦にしてしまいました。
 いやー…夫婦…年の差夫婦…に、なっちゃいましたね………。
 
 なってしまった後のことはあまり考えていなかったのですが、まぁ…黒うさが16歳になるまでは呼び名が何になろうと大した進展はないでしょう。 

 次のシリーズは茶うさと黒うさが出会ったときの過去話、『あなたとであった日』です。

 茶うさが黒うさに敬語を使う理由とかをいろいろ捏造しております。

 もともとが人様の絵本からのパクリだったものをコンユにしているものですから、後付でざくざくと設定が付け足されていくのでかなり無理があるのですが…その辺は《心眼》とか…《勢い》と《コンユへの愛》で読み流して下さい。