〜愛しのコンラート様シリーズ〜 「宇宙より愛を込めて−ボンバイエ!コンラート様祭2011秋−」 眞魔国きっての剣の遣い手、ウェラー卿コンラート。 その強き心は獅子王の如し。 卓抜した俊敏さはカモシカの如し。 抜きんでたエロさはインド人も吃驚と専らの評判である。 当の本人は《本命一人にモテれば良いんです》と、極めて真剣に祈願しているというのに、この国の神とも言うべき男がアレなせいか、日を追う事にロクデモナイ人々に愛されまくっている。 勿論、そのロクデモナイカテゴリーに本命は入っていない。 また、何人か本命ではないものの、ロクデモナイカテゴライズからは逸脱している人々もいる。その中の一人が狂信的なコンラート信奉家、何かが残念な美女ラダガスト卿マリアナ嬢である。 ほぅ…。 マリアナは秋の夕暮れを見つめながら、アンニュイな吐息を漏らした。ラダガスト家のベランダは見晴らしが良く、山間に広がる湖畔に夕日が映る様は、芸術的なまでの美しさであった。 大概色んな理由を付けてコンラートを愛でる彼女のこと、この日も夕陽に向かって思うことと言えば、《ああ…コンラート様とこのように素敵な夕陽を眺めながら、湖畔で追いかけっこがしたいわ》等といったことであった。 ちなみにマリアナは負けず嫌いなので、万が一そんな事態になったら《捕まえた♪》《きゃ!》というウフフアハハな展開にはまずならない。 捕まえて欲しいにも関わらず、《走り出したら止まらない》《振り向かない、それが青春》というポリシーが身体の芯に染みこんでいるため、如何なる砂地でも底なし沼でも10pハイヒールで全力疾走してしまうので、カモシカと称されるコンラートをもってしても、捕獲は不可能である。 《ほほほほほほほほほほほほほ……っ!!捕まえてご覧なさいっ!!》 ドップラー現象を残しながら疾走していくマリアナ。我に返って振り向いたら、誰もいない…というより、そもそも波打ち際から逸脱して見知らぬ山岳地帯まで入り込んでいそうでかなり気の毒である。 そんな時も、きっと忠実な侍女頭だけは馬車を死にもの狂いで走らせて追いつき、哀愁のテーマを主人の後ろ姿に被せてくれるだろう。(←「そんなに忠実なら、まずコンラートを拾ってやれよ」という冷静な突っ込みはナシの方向で) なお、コンラートの能力は対本命の時だけ顕著に上昇するため、愛しの魔王陛下がどうにかなっちゃいそうな時だけはマリアナの疾走力を越える。 逆に言えば本命以外には全く発動されないため、コンラート本人が危機に陥っているときも例外ではない。だからこそ、時々酷い目に遭ったりするわけである。 何はともあれ、マリアナは無駄に整った面差しで夕焼けを見つめていたわけである。 この時…チカっと瞬くものがあった。 「あら…一番星にしては妙ね?」 「そうですわね。なにやら…近づいてくるようですが……」 夕餉前のお茶を運んでいた侍女頭も、怪訝そうに小首を傾げる。見る間に瞬くものはその光量を増し、いつしかギラギラと輝く未確認飛行物体と化していった。 その物体の向かう方角を確認するや、マリアナはガタンと音を立てて椅子から立ち上がった。 「馬をひけーいっっ!!」 「はっ!只今!!」 「待ってましたぁっ!!」 説明しようっ! マリアナの卓越した第六感は、コンラートの存在する位置を正確に認知するのであるっ! すると忠実な侍女頭は瞬時に出立の準備を済ませ、動乱好きなメイド衆、女豹族の皆さんも素早く後を追えるように装備を固める。なんせコンラートが様々な事態に巻き込まれるたびに、呼んでもないのに出張っていくため、女豹族の出立速度も救急レスキュー隊並に鍛えられてしまった。 「とうっ!!」 かなり久し振りなので説明しよう! マリアナは空中を飛びながら乗馬用の服装に着替えるという離れ業が出来るのだっ!! 何故わざわざそんなことをする必要があるかというと、なんとなくカッコイイような気がするからである。 そんなこんなで淑女らしい乗馬スタイルに変身したマリアナは、6つの心臓を持つ眞魔国随一の騎馬、《真紅の羅刹号》を駆って一路コンラートの元に向かった。 当然背後を追いかけてくる侍女頭は、ラダガスト家出撃マーチを高らかに吹き鳴らすのであった。 ファイッ…ファイッ… ファイッ…ファイッ… チャ〜、ラ〜ラー、 チャ〜ラー、ラ〜ラー チャ〜、ラ〜ラー、 チャ〜ラー、ラ〜ラー マ・リ・ア・ナ、ボンバイェッ! マ・リ・ア・ナ、ボンバイェッ! 《行け行けマリアナ様!》 《行け行け羅刹号!》 《行く手を阻む敵など、超弩級究極奥義で宇宙の彼方に蹴散らせ!》 忠実な侍女頭は主人のバックに、そのような文句の入った立て看板を出して意気を高めた。疾走中ゆえ、空気抵抗が凄まじいので大変である。 * * * 城下町にほど近い大農場地帯ではこの日、盛大に収穫祭が行われていた。華やかな民族衣装に身を包んだ人々が歌い踊り、殆ど無料で施される炊きだしに舌鼓を打つという素敵企画である。 魔王陛下や大賢者も、アイルランドの民族衣装に似た可愛らしい巻きスカート風の服を着こんで、ちょっと馴れない木靴に躓きながらも楽しいひとときを過ごしていた。同行した美形三兄弟やヨザック達も同様に民族衣装を着こんでいるため、いつもとは少し雰囲気が違っている。 最初は田舎臭い民謡に合わせて踊るのに文句を言っていたヴォルフラムも、意外と上手にポルカを踊ったものだから、魔王陛下にお褒め頂き調子に乗って踊りまくっている。 普段はしかめ面が標準装備のグウェンダルだって、この日はプリティな魔王陛下と弟たちのみならず、ちっちゃな子ども達もお土産のお人形さんみたいな服を着て踊り回っているわけだから、油断するとすぐ脂下がってしまう。 コンラートの表情はいつもどおり柔らかではあったのだけど、身につけているものが巻きスカートと短パンなので、幾らか少年めいた雰囲気である。 やたらと往年の名作漫画に詳しい村田などは、出立時に《丘の上の王子様みたいだねー》と言っていた。 楽しいひととはあっという間に過ぎ、夕刻を迎える時刻になると魔王陛下達は撤収することになった。 「え〜。お祭りなのに夜の部には参加しないの?こういうのってメインは夜じゃんかー」 ユーリ陛下がぶすくれていると、今日一日笑顔が目立っていたグウェンダルも憮然とした標準装備に戻ってしまう。 「実施計画をちゃんと見ていないからそんな文句が出るのだ。日中ならいざ知らず、夜間ともなれば警備計画は厳重を極めねばならん」 「う〜…だからコンラッドとお忍びで来たかったのにぃ〜」 「公式に呼ばれたのだ、仕方ないだろうが」 ぶうぶう言っている魔王陛下をどつきながら馬車に乗せようとしていたグウェンダルだったが、その行く手を不意にコンラートが阻む。 「おい、コンラート…」 「グウェン…なにか、来る」 「…ぬ?」 説明しよう! コンラートは対本命限定で超感覚を駆使し、危険を察知することが出来るのだ! 「異様に進行が早い飛行物体だ。馬車に乗せてしまうより、俺の傍にいた方が安全だ」 グウェンダルにも異論はなかった。コンラートの背後にユーリを庇うと、グウェンダルもヴォルフラムと共に抜刀して構える。 暫くすると、コンラート以外の者達も異常を察知し始めた。 「あ…あれは……」 「何なんだ?」 どよめく人々の前に現れたのは、眩いばかりの光彩に包まれた未確認飛行物体であった。 「う…」 目のくらみが漸く収まってくると、今度は別の意味で人々は衝撃を受けることになった。 未確認飛行物体は悠々と空に浮かんで周囲を睥睨しているのだが、円盤状の飛行体に乗っているのは随分と偉そうな態度のクルクル黄髪男で、頭上には宙に浮いた金環を乗せている。 ちなみに言っておくが、金髪ではない。あくまで黄髪だ。ヴォルフラムのように艶々とした蜂蜜色の髪とは全く異なる真っ黄色な髪は、どこかサフランで染めたカレー用の御飯のようだ。 もう一つ吃驚なのは、光源の正体がビカビカと明滅するネオンサインであったことだ。《場末のキャバレーかよ》と、ヨザックなどは苦笑していた。 「そこな茶色い男…朕の元に侍るが良いぞ」 やけに甲高い声が、黄髪男の薄い唇から響いた。神経質そうな細く長い指が示す先には、やはり…というべきなのだろうか?ウェラー卿コンラートがいた。 心なしか兄弟や友人、恋人の目までが生暖かい気がして居たたまれないコンラートだった。 「コンラート…お前、また…」 「コンラッド!俺、絶対あんたのこと護るかんなっ!」 「はははははは……」 軽く遠い目になりながら青ざめていたコンラートだったが、まったりと落ち込んでいる場合ではない。大体要件は分かるが、可能な限りとっととお引き取り願うためにも、一応聞いておかなくてはなるまい。 「貴様、一体何の用だ?あと、あまり聞きたくはないが何者だ」 「朕に興味があるのだな?」 「無い」 「むっふふふゥ…ツンデレなのも魅力的」 ゾワ…っ コンラートの全身にチキン肌が浮かぶ。全身の毛を毟られたチョコボのような姿に、魔王陛下は気の毒そうに眉根を寄せた。本当に魅力的なのは激しく同意だが、なんだってこの人は濃い人にばかり愛されてしまうのだろうか? 「朕はゴージャス・バンディラス・カールスモーキー3世なるぞ。遙か銀河の彼方から、美形青年をゲッチュウするためにやってきた神にも等しい存在である!そこな茶色い男よ、大人しく我の前に尻を差し出せっ!!」 「神、欲望まっしぐらかよっ!!」 派手に無茶苦茶な背景の持ち主であるゴージャスは、大変分かりやすい要望の持ち主でもあった。かりにも神を名乗る身でケツ一直線なのは如何なものかとは思うが、話が早いのは確かだ。 「断る!」 取りあえずコンラート的にはそうとしか言いようがない。 「むっふふゥ〜…そうは問屋が卸し金…っ!遙か銀河の彼方からやってきて、すげなく扱われたのでは朕の立場がないではないかっ!!」 「あんたの立場に慮る義理は無い。このまま居座る気なら容赦なく叩き斬るぞ」 なんだかもう、激高するのも面倒くさい。コンラートはサクサクっと斬ってしまおうとばかりに抜刀すると、ヨザックにも目配せをして体勢を整えた。 しかし一応派手に登場しただけはあって、ゴージャスにも策はあったようだ。 「くくく…。そうは烏賊の金○っ!愚民ども、朕の力に瞠目せよっ!!」 一々物言いに親父ギャグが入るめんどくさい自称神が両手を翳すと、彼の周囲に現れた何かがグルグルと回転し始めた。 「…なにっ!?」 「くはははは…っ!!」 コンラートの卓越した動体視力は、誰よりも速く回転している物体が何ものであるのか認識した。 認識して…ガボーンと顎が外れそうな衝撃を受けてしまった。そして、勢い良く振り返ると愛しい恋人の股間をまさぐり始めた。 「なになに、コンラッドっ!?」 「…ユーリ、紐パンはちゃんと着用しておられますか!?」 「そりゃそう…って、アレっ!?」 ぎょっとした目を剥くユーリの様子に、周囲からもザワザワと声が上がり始めた。 「うわっ!お、俺…パンツ穿いてねぇっ!」 「うへぇ…ま、まさか…あのグルグル回ってるのって…」 「ま、まさか…」 恐る恐る目を凝らす人々の前に、色んな意味で絶望的な光景が広がる。そう、グルグル回転する布きれの群れは今まさに人々が穿いていた生暖かいパンツだったのである。 グウェンダルもヴォルフラムも、あの村田でさえもが微妙な表情を浮かべて幾分内股になっているのだから、その衝撃の度合いが伺えよう。地味に効果の高い攻撃である。 「むっふふゥ〜。朕の力に恐れを為したか?朕はあらゆるものを当人に気づかれずに奪うことができるのだっ!」 だったらとっととコンラートを奪っていけば良いようなものだが、しないということは無生物限定の能力なのだろうか? 「ふふふ…茶色い男よ、朕が優しく手を差し伸べている間に早く言うことを聞いておいた方が良いぞ?後生大事に護ろうとしているそのちびっ子タン…一瞬にして全裸にしてもいいのだぞ?」 本当に、地味に嫌な攻撃だ。取りあえずコンラートは激しく表情を歪ませていた。 「は〜や〜くゥ〜。ほっほっほ、こちらに来るが良いぞ茶色い男〜。おお、そうじゃ。そなたから奪ったパンツの股間部分をじっくりと舐めながらまってやけうかのォ〜」 「変態野郎が…っ!」 「ふほほほ〜っ!」 怒りに打ち震えるコンラートは跳躍して剣を振るおうとするが、ゴージャスは嬉々として両手を翳す。 「危ない、コンラッド…っ!そいつ、あんたを真っ裸にするつもりじゃないっ!?」 「ユーリ。あなたが剥かれるくらいなら、俺が一瞬ストリーキングするくらいなんのことがありましょうっ!!」 恋人同士の切ない(?)庇い合いになど興味のない神が力を奮おうとした時、稲光のように宙を一閃した光があった。 「ぅオラァァアアアアアーーーーーっっ!!!」 真紅の乗馬服が宙を引き裂き、雷光を孕みながら凄まじい蹴りを自称神に激突させた。一瞬にして神の顔は変形し、歯茎部分でへしゃげた歯が何本も空を舞う。 ゴっ… ↑顔面が地面に激突。 ドォン…っ ↑体幹部が垂直に横転。 ゴロォオオオオ…… ↑芋虫ゴロゴロの要領で側転。 ドゴロォンっ!! ↑建物の壁面に激突。壁材大破。 「ゴファ…っ!き、貴様…神をなんだと…っ!」 普通ならこれだけで死ぬか意識を失いそうなものだが、流石に神を名乗るだけあってゴージャスは頑張りやさん(?)だった。 おかげで、余分な恐怖を味わうことになったりではあったけれど…。 「はぁ…神ぃ?」 ズババ…バチッバチッ……っ! 電飾をビカビカさせて神を名乗ったゴージャスに対し、現れ出でたラダガスト卿マリアナは、自然光を背景に光らせていた。稲光が盛んに背景に飛び交い、見事な銀髪がメデューサもかくやという勢いでうねうねと蛇のように蠢いている。 説明しよう!飛来する蹴りの速度が凄まじすぎるマリアナは、時々うっかり音速を越えてしまって、雷を身に纏ってしまうのだ! よい子は真似しないでねっ!!普通は衣服に着火しちゃうよっ!! 「コンラート様を越える神など、この世に存在せぬわぁあ…っっ!!」 「ごふ…ち、朕を…愚、弄っロロロロロロロロシアンルーレットぉ〜〜っ!!」 ドドドドドドドドドドドド……っっ!!!! 怒濤の蹴り技が、稲光を纏ってゴージャスに炸裂する。言っておくが、このゴージャス。神を名乗って銀河の果てからわざわざやってくるくらいだから、実は結構な技の持ち主である。実力を発揮すれば、きっと眞魔国だって世界だって、征服は出来ないにしても(統治能力0だから)滅ぼすくらいは余裕のよっちゃんで出来ただろう。 だがしかし、今回は相手が悪かった。 なにせラダガスト卿マリアナは大変な唯我独尊体質な為、原則として人の話なんか聞いちゃあいない。その為、大物ぶって技の前振り口上や《ため》が無駄に長いゴージャスは、大技を発動する前に攻撃を喰らってしまうのである。 絶対週刊少年ジャ○プ辺りにはいてはいけない、激しく空気の読めないヒーロー…いや、ヒロインといえる。絶対敵の技に《なにぃっ!?》とか、技名を聞いて《○○…だとうっ!?》とか、吃驚してあげない。 彼女の座右の銘は、《コンラート様以外はアウトオブ眼中》なので、これはもう仕方ない。 「オラオラオラオラオラオラオラオラ〜っ!!」 「貧弱貧弱貧弱ぅぅぅぅううう〜っ!!」 もはや背後のスタンドが立とうかという勢いでラッシュが決まり、止めとばかりに、やっぱり技の《ため》が長い魔王陛下がいつもの《正義印》を翳して水龍をぶつければ、ゴージャスは為す術もなくお空の星と化してしまう。 キラン…っ! 来たときとは対照的な潔さで消えてしまったゴージャスが、二度と再びこの地を踏むことはないであろう。 さようならゴージャス。 さようなら神! 神らしい大技を決めることもなく、単なる変態プレイしか披露できなかったけれど、とりあえず祭の余興くらいにはなったようだ! * * * 邪魔者が去ったのを見届けてから、ユーリは上様化を解いてわふわふとマリアナに駆け寄っていった。その様は民族衣装を纏っているせいもあって、子犬のようで大変可愛らしい。 「マリアナさーん!今日もありがとうぉ〜っ!!」 「ほほ…魔王陛下にはご機嫌麗しゅう。陛下の大技も見事でしたわ。完成度の高さに、コンラート様への尽きせぬ合いが感じられました」 「えへへぇ。やっぱ気付いた?」 「ええ、あの妙ちきりんな男が吹き飛ばされたときに…男の身体を星座に見立てて、《コンラート様座》を作っておられましたね。端に光る血染めのハートマークが秀逸でした」 「えへ。やっぱ、ハートマークは赤だよね」 「ほほほ…陛下と来たら、本当に乙女らしいこと」 乙女は多分必殺技で変態野郎を吹き飛ばすことは少ないだろうが、《きゅふ〜》と頬を赤らめているユーリは確かに愛くるしい。でも、敵の血でハートマークとか描いちゃう辺りは、結構魔王っぽい。ユーリもまた、コンラートが絡むと結構な血湧き肉躍り具合で殺気を帯びてしまうようだ。 師匠として紅い悪魔だのマリアナだの慕っている影響もあるが。 「では、コンラート様。マリアナはここで失礼致しますわ」 マリアナが完璧な淑女の礼を持ってお辞儀をすると、コンラートもユーリも名残惜しげに引き留めた。 「助けて貰ってばっかりで申し訳ないな」 「ねぇ、良かったら血盟城に遊びに来てよ」 「いいえ。私と来たら緊急時とはいえ、このように無粋な身なりでお目汚ししてしまいましたもの。又の機会に、完璧な姿をお見せしたいですわ」 「そんな〜」 マリアナはいつになくそそくさとした動作で退席を急ぐ。仄かに頬を染めて恥じらう様子から見ると、何時でもどこでも真紅のロングドレスを纏っているのに、今回は乗馬服なのがよほど不本意であるらしい。 「それでは陛下、再戦の日まで壮健なれっ!」 「うん、技も鍛えとくね〜」 《ほほほほほほほほほ〜》高らかにドップラー効果を残して去っていくマリアナを見送りながら、ユーリははたと気付いた。 「あれ?そういえば、あの派手なクソ野郎が取っちゃったパンツって、どこいったのかな?」 「あぁ、あそこですね」 コンラートは猟犬を越える速度でユーリの黒紐パンを視認すると、素早く拾い上げた。しかし、辺り一面に散乱したせいか、無数のパンツの中からコンラートのものを発見することは出来なかった。そもそも、コンラートのパンツはユーリやグウェンダル達とは違って、ワゴンセールの安売り3枚セットボクサータイプパンツ(←着るものに気を使わないタイプ)なので、無くしても別になんてことはない。 多少《股ぐらが落ち着かないな》とは思いつつも、何とか無事に済んだことを喜びながら血盟城へと帰還していった。 * * * 「ああ…どうしましょう…っ!出来心とはいえ、あ…あ……こ、こんな…っ!!私、罪深い女ですわ…っ!!」 マリアナは苦悶していた。 目の前には豪奢な宝箱がドカンと鎮座ましましており、その中には相対的にちんまりとした布きれが丁重に置かれている。 そう…マリアナは禁断の扉を開いてしまったのである。 どさくさ紛れに、コンラートのパンツを猫ばばしてしまったのだ! かなり淑女としての品位を貶めてしまう行為なのは確かだ。 唯我独尊で生きたいように生きているマリアナとはいえ、流石にコンラートは聖域だ。最初は、単に《コンラート様の下着を地に這わすことなど出来ぬ…!》と、戦闘中だというのに恐るべき動体視力を見せて空中でひっ掴み、ポケットにねじ込んだのである。誓って言うが、後で返すつもりだった。 だが…乙女心は時として、《恋》を《変》に変えてしまう。 「あぁあああ〜…どうしましょう…っ!!」 床をゴロゴロと転がりながら悶絶していたマリアナは、羞恥のあまり上段・中段・下段蹴りを超高速で展開してしまった。 自らの技が、もはや神をも凌ぐ領域に達していることも忘れて。 ゴ…っ! それは、一瞬のことであった。 光速を越えた蹴りによる摩擦+季節柄乾燥した空気。そんなものがマズイ具合に絡み合って、薄っぺらな下着は《あっ》という間もなく燃え尽きた。 ギャァァアアアアアアア〜〜〜〜〜!!!!! その日、ラダガスト家邸宅には断末魔を思わせる絶叫が一晩中轟き続けたという…。 おしまい あとがき うん。いつも通り変態話でした。 なんなんでしょう、このシリーズ…。もはやコンユじゃないんじゃないかという懸念すら感じますが心の広い閲覧者様方に支えられてこんにちまで命を繋いでおります。 その中でも相当マニアックな方々にそっと愛されている《ウェラー狂団》の赤フン隊を登場させ損ねたのでちょっと残念。 また何かの機会に登場できれば幸いです。 では股っ! |