2011年バレンタインリレー企画
〜平行世界のユーリ〜
「3組分のあっつあつ」








「ちょっと甘すぎるかな?」
「いえ、丁度良いですよ」

 溶かしチョコレートに瑞々しい苺を漬ければ、引き揚げた表面はすぐにパリッっとしてくる。我慢が出来ずに口に運べば、ぱりぱりした食感と果肉の弾力、甘酸っぱい味わいにユーリはうっとりと目を閉じた。結婚してから初めてのバレンタインにユーリが選んだのは、チョコレートフォンデュのセットだった。果物だけではなく、ちょっと塩味やスパイとを効かせたラスクなども用意しているから、コンラートも愉しめるかなと思ったのだ。

「美味しい〜」
「それは良かった」

 くすくすと笑うコンラートは、やはり薄いラスクに少しだけチョコレートを付けて、並びの良い歯列の間に挟むと、まるでCMみたいに綺麗な断面を見せて噛む。

「ん、なかなかイケます」
「うん、ラスクも食感が変わって良いね。あ、でもシーツに欠片が落ちちゃうかな?」
「今更でしょう?」

 くすりと蠱惑的な笑みを浮かべるコンラートは、マシュマロにチョコを浸したものが冷めたのを確認してから、ぽとんとユーリの腹に乗せる。そう、ここは魔王居室の大きな寝台の上で、二人とも全裸なのである。散々相手を求め合った後で、ピロートークを交わしながら夜食としてチョコレートを味わっているところである。時間的にも、丁度バレンタインデーに突入した辺りである。

「こんな時間には、あの連中はよく寝てるよね?ふふ…どういうバレンタインを過ごしてるのかな?」
「あ…ユーリ、不用意にあの連中のことを思い浮かべたりすると…」

 いわんこっちゃない。

 無駄に魔力の強いユーリが《あの連中》こと、うさぎコンユに鬼っ子ユーリ、リーマンコンラートを思い浮かべれば、その姿は実像として召還されてしまった。

「うわっ!」

 危うく熱いチョコ浸しになるところだったが、二組のコンラートもやはり卓越した運動神経の持ち主である。見事に互いのユーリを抱えて着地を決めた。

「え…」
「わ!」

 より驚いたのは果たしてどの組であったろうか?少なくとも、眞魔国組の二人は他の2組に大きく驚かされていた。なんと、ちっちゃくてあどけなかったユーリが、いずれも16歳くらいの大きさに成長しているのである。

 頭頂部から角を生やしたユーリは瑞々しい身体を惜しげもなく晒して、首に紅いリボンを巻いているし、うさぎのユーリはふりふりとした耳と尻尾が可愛い、ベビードールを身につけている(しかもノーパン!)。いずれもバレンタイン仕様でむにゃむにゃしていたに違いない。そういう眞魔国組のコンユも、見事に全裸だったわけだが。

 うさぎ耳のコンラートはやっぱりうさぎしっぽが露出していて、それ以外の場所が逞しいだけに、本格派(?)のゲイがうさぎコスプレをしているようで、正直…目に痛い。

 一同は頬を朱に染めながら口角を歪め、いそいそと眞魔国組が手渡した衣服を着こんだ。全員が大体同じくらいのサイズだったのがせめてもの幸いである。



*  *  * 




「それにしても、一気に大きくなったね!」

 居住まいを正すと、3組のコンユはみんなでテーブルを囲んでチョコレートフォンデュパーティーを始めた。

「俺んとこじゃ結構年月が経ってるよ?最後に会ったのは9年か10年前かな?」

 言われてみれば、うさぎ次男だけ少し年を経たようだ。ただ、元々が若ぶりな体質なのか、笑い皺が少し深いくらいの違いしかなかったけど。

「俺のとこは一年くらいしか経ってないよ?」

 そういう鬼っ子ユーリは、一番遠慮容赦なくゴロゴロと自分のコンラートに甘えている。とはいえ、いずれの二人も新婚ほやほやなのだそうで、心的風景としては殆ど鬼っ子と良い勝負の甘えたぶりを示している。その証拠に、ふとした瞬間の触れ合いに今まで見られたような遠慮がない。

「熱っ!」
「火傷しましたか?舌を見せてみてください」

 うさぎユーリがまだ熱いマシュマロチョコにちいさな悲鳴を上げると、うさぎコンラートが心配そうに舌の検分をして、大したことがないと分かると、ちゅっと唇の端に悪戯なキスをする。

「もー、兎前…ううん、人前で恥ずかしいよコンラッド」
「そう?でも、他のみんなも俺たちと同じ新婚だもの。あまり遠慮しなくて良いんじゃないかな?」
「そっかなー」
「うんうん。ちゃんとしたキスをしたって平気なくらい。ね、ユーリは俺とキスしたくない?」
「したくないとか言ってないし!」
「じゃあ、したい?」
「もー…」

 つんっと横を向いたものの、眦を紅に染めて《したいに、決まってるじゃん》と囁かれると、うさぎコンラートは嬉しそうにちゅっちゅっと啄むようなキスをする。こんなに可愛いうさぎユーリ相手では、自制心の無さを責めるのも酷な気がする。そもそも、過酷な忍耐生活を強いられていた分、解禁日を経た今、少々はっちゃけても罰は当たらないだろう。

「良いなぁ〜」
「真似したい?」

 鬼っ子ユーリが指を銜えて羨ましがると、優しげなリーマンコンラートが甘く耳朶に囁きかける。その息からはほわりとチョコレートの香りがした。

「真似じゃなくて、ちゃんといちゃいちゃしたい」
「ちゃんとか、良いね」

 愛おしそうに頬を擦り寄せたコンラートは、感じやすいらしいユーリの角をかしりと甘噛みすると、《ぁんっ》と声を弾ませるユーリの背を抱きしめた。

「…………このチョコ、何か変な成分とか入ってないよな?」
「俺たちも食べてますけど?」

 前回、結婚式に会った時にはユーリが幼かったから、いちゃいちゃしているように見えてもどこか遠慮があったのだろうけれど、今の彼らは脳漿が耳の穴から垂れてきそうなくらいの甘い雰囲気を垂れ流しにしている。思わず、眞魔国のユーリはチョコレートに紅い悪魔の実験材料か、魅惑の前魔王の秘薬が入ってやしないかと心配になってしまった。

「じゃあ、俺たちが比較的大人しいのって…もう更年期に入ったから?」
「それを言うなら倦怠期ですけどね。更年期はともかく、倦怠期なんてものに入る予定は俺には無いですよ?」

 野性的な笑みを浮かべたコンラートは、《ご要望にお応えして…》なんて囁きながら、唇に銜えた細い焼き菓子の端をユーリに寄せてくる。嬉し恥ずかしポ○キーキスを仕掛けているのだ。

「ん…」

 折れないようにカシポシと歯を立てていくと、器用なコンラートはすぐに互いの唇が触れそうなところまで近寄ってきて、変に緊張したユーリが噛みすぎて折ってしまっても慌てず騒がず、咥内に舌を差し入れてきて一緒に咀嚼する。

「んっんっ…」
「ぁんっ」

 至る所で甘い息が漏れて、チョコレートを絡めた食品が物凄〜く甘やかな食べ方で消費されていった。

「三組で寝台に…なんてのは、流石に刺激的に過ぎますかね?」
「倫理的な問題と、羞恥心の限界から許容できません!」

 眞魔国のユーリが、大胆すぎるコンラートの発言に毛を逆立たせると、同時に他の二組の姿が淡くなっていく。これでは…二組が居ないところで寝台に上がりたいと言っているようなものだ。とはいえ、他の二組だってきっと、同じような状態だったのだろうけど。

「じゃあまた呼んでね!」
「今度はあんまり恥ずかしくない時が良いな!」

 《あはは》と苦笑する声が消えていくと、ユーリの身体はふわりと抱えられて寝台の上に転がされる。そしてコンラートが手に取ったのは…。

「それ…俺に着せる気?」
「着て下さる気があれば、是非お願いしたく存じます」

 にっこりと佳い笑顔を浮かべたコンラートの手には、紅いリボンと真っ白なベビードール。いずれも二組の夫婦の忘れ物だ。

「…汚したら、悪いよな?」
「きちんと洗うから大丈夫ですよ。変なところにきつく巻いたり、ビリビリに破いたりはしませんからご安心を」
「そんな発想が出てくること自体が心配だよ!」

 今はなくとも、将来的にはやったりするのだろうか?それこそ、倦怠期の時とかに。
 そうは思いつつも、夫に甘いと自覚のある魔王陛下は恥ずかしそうにベビードールに足を通し、されるがままに首筋を夫に委ねる。

「リボンは結ぶのも解くのも楽しいものですね」
「じゃあ、あんたにも結ぼうか?」
「あなたがお望みなら、お好きなように。うさぎの俺なら似合いますかね?」
「尻尾に結んだり?」
「…」

 二人で想像して、似合うんだか怖いんだか分からない姿に悶絶してしまった。
 
「笑うのも良いけど、もっと別のこともしたいな」
「うん」

 目に涙まで浮かべて受けまくっていた二人は、暫くの間、くすくす思いだし笑いをしながら愛し合っておりましたトサ。



おしまい




あとがき



 バレンタインリレー企画、楽しんで頂けましたでしょうか?
 こんなに同じイベントの話を固め打ちで書くのは、1年目のあけおめ企画以来です。色々と具体的なリクエストも頂けましたので、期せずして懐かしいお話を思い出したり、新しいお話に取り組めたりして楽しかったです♪

 特に、《マッサージ券》のお話や「青空とナイフ」シリーズなどは、ホワイトデーのエピソードも書いてみたいものです。特に後者は、あのツンツンデレツン(←このフレーズがお気に入りに…)の次男がどういう顔をして、というか、どういうプレイでユーリに白いものを食べさせるのか、自分でも気になります。

 皆様、ニヤニヤしながらお待ち頂ければ幸いです。