「はるをあげる」





   


 ふぁん…と、とても良い香りが冷たい風に乗って流れてきました。甘いけれどお砂糖のようではなく、胸の中が清々しい心地になるような香りでした。
 10歳の少年リヒトはくんくんとちいさな鼻で嗅ぐと、それがどこから流れてくるのかを突き止めました。

 血盟城の中庭に植えられた樹木達は一昨日に降った雪の名残を枝に乗せ、常緑樹を除いては黒っぽい木肌ばかりが見えて寂しい様子なのですが、そこから香りは流れてくるようです。リヒトは溶けた雪が夜の間に凍って、《ザフザフ》と音を立てるのを革のブーツで踏みながら慎重に歩いていきます。

 後少しで異世界…大好きなレオンハルト卿コンラートの世界に旅立つのですから、みっともない格好では行かれませんからね。ちなみに、今のリヒトは《父ちゃん》のユーリとお揃いの漆黒の詰め襟を着て、ふかふかとした毛皮のマントを羽織っています。

「あ、これだ!」

 見つけ出したのは背の低い、少し寂しげな枝振りの灌木でした。リヒトにも手が届きそうなところに、ふかふかとした多弁の花が咲いています。小さいけれど薫り高いその花が、何という名前なのかは知りません。ただ、春を目前に控えた今時分に咲くものであるとは知っています。

 リヒトはその花を摘もうと手を伸ばしましたが、たった一輪きりの花が無くなってしまったら、さぞかしこの枝は寂しかろうと思うと躊躇してしまいます。

『レオに見せてあげたいんだけどなぁ…』

 あちらの季節は丁度秋から冬にはいるところで、どんどん木の葉が散って景色が寂しくなっていく頃だと聞いています。だったら、《季節を一気に飛び越えて春の花をあげたら喜ぶかな?》と思ったのですが、いざとなると手が止まってしまいます。

『いっしょに見れたらよかったのにな!』

 リヒトはもっと小さい頃にレオに求婚していますから、16歳になったら同じ季節の中で彼と同じものを見ることが約束されています。そうであれば、今日はまだ我が儘を言うべきではないでしょう。

『おれの他にも、この花を見て《春が近いんだな》って、うきうきする人がいるはずだもんね?』

 そう心に頷くと、リヒトは最後に袖口を花に触れさせてからお庭を後にしました。



*  *  *

 


「コンラート陛下万歳!ユーリ陛下万歳!コンラート閣下万歳!リヒト殿下万歳!」

 雲海のような人々の群れから、歓喜に満ちた大歓声が沸き立ちます。
 二人の陛下の名が呼ばわれ、讃えられるというのはいつもの事ながらなんだか不思議な光景です。

 血盟城前の大広場に集まった民達は、自分たちの輝ける星であるレオンハルト卿コンラート陛下も尊崇しているのですが、それとはまた別に、自分たちの世界を救ってくれた英雄であるユーリ陛下とその夫、ウェラー卿コンラート、息子であるリヒトのことも大切に思っているのです。

 ですから、毎年コンラート陛下の就任○周年をお祝いする宴に彼らが来訪すると、熱狂的な歓迎が行われるのでした。

『レオは、国のみんなの前だとちょっと感じが違うなぁ…』

 堂々たる魔王装のコンラート陛下は、麗しくも凛々しい笑みを湛えて人々に手を振ります。その姿には一分の隙もなく、《この方に任せておけば、全てが素晴らしく上手く運ぶだろう》と感じさせるに十分な頼りがいがあります。

 とっても素敵ですけど、普段の様子とは少し違って感じます。

 リヒトはお行儀良く手を振って、ロイヤルファミリーらしく品の良い笑顔を振りまこうとするのですが、気が付くとちらちらとコンラート陛下の方を伺ってしまうのでした。
 民もその事に気付いているのでしょうが、咎めようとする者はおりません。寧ろ、コンラート陛下を好きで好きで堪らない様子のリヒトと見ますと、《この愛らしい双黒の殿下が、無事にコンラート陛下と言祝ぐべき日を迎えられますように…!》と切に祈るのでした。

 それがどうしてそんなに切々たる願いとなるのか、まだリヒトは知りません。

 ただ…リヒトも10歳になりましたからね、薄々は感じているところもあるのです。
 それはリヒトが、ユーリ陛下にそっくり生き写しであることに関係していると思うのです。 



*  *  * 




 式典に続く盛大な宴も終わりますと、二人の魔王とその家族は貴賓室でくつろぎました。

「あ〜…式典だの宴会だのって、色んな人に会えるのは嬉しいけど草臥れるねぇ…」
「お疲れ様、ユーリ」

 二人のコンラートが同時にそう言うと、ソファに沈み込んだユーリを労いました。
 ややこしいので、ここからはレオンハルト卿コンラートは《レオ》、ウェラー卿コンラートは《コンラッド》と呼びますね?

「リヒトも疲れたろう?」
「ううん、平気」

 ソファの背もたれに上体を預けるユーリに、リヒトは気遣わしげな眼差しを送りました。ユーリは基本的にとっても元気な人なのですが、ああいった堅苦しい席で笑顔を浮かべ続けることが相変わらず苦手なのです。

 リヒトが生まれた頃に比べると背丈は5pほど伸び(ほっそりとしたシルエットは相変わらずですけどね)、後ろ髪も肩口まで伸びて大人びた容貌になりました。目鼻立ちも少しシャープになりましたし上下肢もすらりとしておりますので、しどけなくソファに身を任せた姿はとても麗しいのですけど、普段の弾けるように元気な姿を知る身から言えば、とっても心配になってしまいます。

「ユーリ…少し熱っぽいね」
「そう?」

 ぴたりと大きな掌を額に押し当てられますと、ユーリは少しだけ甘えるように瞳を細めます。この二人と来たら何時までも新婚自体そのままに仲良しなので、見ている方が照れてしまいます。

「コンラッドの手、相変わらず冷たくて気持ちいい…」

 くすくすと笑みを零すユーリでしたが、コンラッドの方は益々気遣わしげな表情になっていまいます。

「やっぱり熱があるね。身体は熱いタオルで拭いてすぐに寝よう?」
「え〜?汗かいたからお風呂に入りたい…」
「ダメだよ。こんなに疲れているんだもの…。明日の朝、熱が下がっていたらゆっくり入ろう?」
「わかった…」
「丁寧に拭いてあげますからね」
「あんたのは…ちょっと丁寧過ぎなんだ」

 《具合が悪いときでも、気持ちが良くなりすぎる位…》少し不満げにぷくんと唇を突き出したユーリ(頬が一層紅くなっているようでなので心配です)を、コンラッドは大切な大切な宝物のように抱え上げると、慣れた様子で歩いていきます。
 何しろ旅先とは言っても同じ血盟城ですから、勝手は知れたものです。

「レオ、すまないが早めに休ませて貰うよ」
「ああ…ゆっくりやってくれ。ユーリもお大事に。今日来るのに、仕事で無理をしたんだろう?」
「そんなことないよ。暖かくなったり寒くなったりの変化が大きかったからさ、ちょっと風邪引いただけ」
「だったら、ますます大事にしないとね。すぐギーゼラを呼ぶよ」
「ん…」

 こくんと頷くと、ユーリはコンラッドの腕に身を預けて瞼を閉じました。すっかり安心切った様子に、レオの瞼が少しだけ伏せ気味になります。

『ああ、またこの顔だ』

 堂々たる式典でのレオと違い、こういう時の彼にはどこか《儚い》印象があります。これはそっくり同じ顔をしたコンラッドには殆ど…正直なところ、ミジンコ程度も感じられない要素でした(リヒトが知らないだけかも知れませんけどね)。

「リヒトもおいで?」
「パパ…おれはもうちょっとここにいても良い?」
「そうかい?」
「えっと…えっと、できれば…レオと一緒に眠りたいんだけど…良い?」

 レオとコンラッドをちらちらと見やりながらリヒトが言うと、どうしてでしょう?コンラッドの方が虚空に目を遣って何だか色んな事を考えている顔をします。

「リヒトがそうしたいのなら良いけれど…。まあ、レオの自制心なら大丈夫だとは思うんだけど……。16歳までは、本当に《一緒に寝る》だけにしようね?」
「パパ、どうしてお口の端が引きつってるの?」
「いやいやいや…何でもないんだよ?何でもないんだけど…色々あるんだよ」

 よく分からないことをもごもご言っているコンラッドというのは、滅多に見られるものではありません。変な脂汗を額に浮かべた姿もね。

「レオ…大丈夫だと信頼してはいるんだが…」
「分かってる、大丈夫だよ。こんな小さな子におかしな事などしないよ」
「すまない…俺が君の立場だったら…という基準でついつい見てしまうものでな…」

 コンラッドは一体何の心配をしているのでしょうね?
 まだ何やらぐだぐだ言っていると、ユーリに耳朶を引っ張られて部屋を出て行きました。ユーリがそっと小さな声で、《あんた、俺が10歳でもやっちゃいそうなのかよ?》と聞くと、《お恥ずかしながら…》と返しているのが妙に気になります。



*  *  *

 


 両親が出て行きますと、不思議なもので…リヒトには急に開放感が出てきてぴょうんと身を弾ませます。二人とも大好きなのですが、どうしてだか四人一緒にいるときには微かな緊張感があるので全力で甘えられないのです。 
 
「レーオ…っ!」
「また大きくなったね、リヒト!」

 ぽぅんと弾むようにして抱きつくと、レオは弾けるような笑顔を浮かべてくれました。先程までの儚げな印象は薄れましたが、その代わり、護ってあげたくなるほど純粋な笑顔に感じられました。

 民の前に出るときには幾重にも重ねた鎧が、リヒトの前だとパラリと剥がれてしまうみたいで、何だかとっても嬉しいです。

『おれの前で、もっともっと安心してくれるようになったらいいのに!』

 わふわふとしがみつく腕が、もっと伸びたらそうなるでしょうか?
 抱きついた胸が、彼をすっぽりと包み込めるくらいに広くなったらそうなるでしょうか?
 
 でも…リヒトの両親の体格差から鑑みるに、そんな逆転劇は起こりえないようです。

『こ…心がおっきければ、レオだって安心してくれるよ!』

 ええ、心の大きさに全身の蛋白質量は関係ありませんからね。豊かな心の栄養を与えれば与えるだけ、無尽蔵に大きくなれます。

「あ…そうだ、レオ。この袖を嗅いでみて?」
「ここかい?」

 くん…っと鼻を寄せられると、どきんと胸が弾みます。
 長い睫が伏せられ、至近距離にすべやかな頬がありますから…コンラッドがユーリにそうするみたいに、そっと唇を寄せたくなるではありませんか。

『ちょっとだったら良いかな?唇のちゅーって、幾つになったらしても良いんだろ?』

 コンラッドが心配していたような事の範疇に、これは入っているのでしょうか?
 ちょっと考え込んでもじもじしている内に、袖口に埋められたレオの顔は《ふわぁ…》っと白い華が咲くみたいに綻びました。

『わぁ…っ!』

 まるで、あの華がここに咲いているかのようです。
 なんと美しい…清らかな微笑みなのでしょうか?

「良い香りだ…。これは、春告花かな?」
「う…うん、多分そう。あのね?今年最初の花が血盟城の庭に咲いてたんだ。レオにも見せてあげたかったんだけど…。本当に一輪きりしか咲いていなかったから、他の人が見られないのは悪いなって思って、持ってこれなかったんだ…。ゴメンね?匂いだけ伝えたくて袖に花粉を含ませてきたんだけれど、花も持ってこれれば良かったなぁ…」
「何を言ってるんだい、リヒト…優しい子だね」

 《俺のために、胸を痛めてくれたんだね?》…うっとりするほど佳い声で囁くと、感極まったようにレオは唇を寄せてきました。ふくっとした頬に形良い、少し冷たい唇が押しつけられますと、リヒトの身体には《かぁ…》っと熱い感情が奔ります。

 でも…ちょっとだけ不安も感じるのでした。

『誰かが言ってたっけ…昔、レオは父ちゃんのことが物凄く大好きだったんだって…』

 きっと、それは今でも同じなのでしょう。だからきっと…ユーリが傍にいるときにはどこか儚げな印象を纏うのです。

『父ちゃんにそっくりなおれは、大きくなってもレオを嫌な気持ちにさせたりしないかな?』

 それか、もっと怖いのは《ユーリの代わり》として愛されることでした。
 レオが幸せならそれで良いのだと思いたいですが、やっぱり誰かの代わりに愛されるというのは、幾ら相手のことを大好きでも…そうであるかにこそ嫌なものですよね?

 でも、そのことを口にするのは恥ずかしくて黙り込んでいたら、レオが心配そうに眉根を寄せました。

「ゴメン…コンラッドに言われたのに、我慢できずにキスをしたりして…。約束を破ったから、嫌いになった?」
「ち…違うよっ!おれだって…っ!」

 《キスしたかった》…その一言が、どうしてだか言えませんでした。
 だって、レオがリヒトにしたいキスと、リヒトがしたいキスとでは意味合いが違うような気がしたのです。

『おれがしたいキスは、きっと…父ちゃんとパパがしてるようなやつなんだ』

 そしてレオが自分にしてくれるキスは、ユーリとコンラッドが寝しなにしてくれるキスと同じだと思うのです。
 そう思ったら胸がきゅうっと苦しくなって、目頭が熱くなってしまいました。

「…リヒト…どうしたの?」
「ごめ…おれ……」

 う…っ
 ひっく……

 情けないくらいに、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちて止まりません。
 大好きな人にキスをして貰ったというのに、自分と違う思いでくれているから嫌だなんて、どうしてそんな我が儘を思うのでしょうか?
 《獅子王》、《英雄王》と讃えられるレオンハルト卿コンラートの寵愛を得たいと…せめて裾野に侍りたいと恋い焦がれている者は国の内外を問わず大勢いるでしょうに。
 リヒトは自分がとってもたちの悪い欲張りさんのように思われました。

「泣かないで…君の涙を見るのは、辛い…」
「う…」

 それはユーリとリヒトを重ねているからでしょうか?
 好きで好きで大好きで、でも大恩あるユーリを自分の好きにすることは出来なくて、コンラッドのものであることを認めざるを得なかったから、そんなことを言うのでしょうか?

 頭がぐるぐるして苦しいものですから、リヒトはむしゃくしゃした気分を思わずぶつけてしまいました。

「レオは…やっぱり、ユーリ父ちゃんの方がおれより好きなんだろ?だから…おれのことが心配だったり、大事にしてくれたりするんだろ?」
「そんなことはないよ」

 意外な速さで打ち返されましたが、まだまだリヒトの気持ちは晴れません。

「嘘だもん!だって…レオは父ちゃんとパパがイチャイチャしてると、枯れススキみたいな顔してるもん…っ!」
「枯れススキかぁ…」

 リヒトは真剣に言っているのに、何故だかレオはくすくすと笑っています。この人は変なところに笑いのツボがあるらしく、リヒトがこういう事を言うと妙に受けてしまうのです。

「あのね…?それは、あの二人がとても羨ましいからだよ」
「やっぱり…」

 自分から言い出したことなのに、リヒトはぐぅ…っと喉奥に硬くて苦い物がつっかえるのを感じて、またぽろりと涙を零しました。
 その涙の筋を唇で優雅に吸い取ると、更に目尻に堪った涙をキスで拭っていきます。

「羨ましいのは…ずぅっと一緒にいてお互いを見つめて、思い存分触れあえることが出来るからだよ。俺は、まだ君を独占するわけにはいかないもの」
「え…?」

 反射的に視線を上げると、どこかはにかんだようにレオが微笑んでいます。

「お…おれは独占して欲しいよ?」
「では、今日からこちらの世界で暮らす?父ちゃんとパパとは、年に一度式典の時だけ会うんだ」
「えと…それは……」

 そんな風に話を詰められると、急に怖じ気づいてしまいます。レオといつでも傍にいたいのは本当のことなのに、ユーリとコンラッドに年に一度しか会えないというのは…何だか物凄く寂しいのです。
 良い匂いのするユーリに抱きしめて貰うのが大好きですし、コンラッドが向けてくれる笑顔はレオとはまた違った意味でリヒトの胸を温めるのです。

 16歳になったらこちらの世界にお嫁に行くのだと決めてはいるのですが…今すぐというのは、やっぱり躊躇してしまいます。

「あ…あの……」
「良いんだよ。躊躇う気持ちがあって当然なんだ。俺のこともユーリのこともコンラッドのことも、全部リヒトは大好きだろう?好きの形がそれぞれに違ったり、その年齢や環境によって一緒にいる時間や触れ合い方が違うのは、仕方のないことなんだ」

 そう言うと、厳かな動作でレオの唇がリヒトのそれに触れます。
 それは、何かを誓うキスのようでした。

「16歳まで…君という花を手折るのは待つ。俺もそう決めているんだよ。君が俺のために花を手折ろうと思っても、今日という日に春を感じるだろう誰かのために止めたようにね」
「レオ…」

 リヒトは《ふぇ…》っとしゃくり上げて顔をくしゃくしゃにすると、またレオにしがみつきました。今度は別の意味で泣けてきたのです。

「ワガママ言って…ごめんなさい……」
「リヒトが我が儘だなんて誰が言うんだい?こんなに良い子はいないよ…」

 レオは優しくリヒトを宥めてから、一緒にお風呂に入ってお布団にも入れてくれました。疵だらけだけど、疵の所以外はとってもすべすべして気持ちの良い肌に触れていると、リヒトはとっても幸せでした。

「あ〜、早く16歳になりたいな!そうしたら、パパと父ちゃんがしてるようなことをおれたちもしていいんだよね?」
「君さえ良ければね」
「そりゃあ良いよ!楽しみだな〜!!」

 ふかふかのお布団の中でふくふくと笑っていたリヒトでしたが、良く乾かしたさらさらの髪を撫でつけられると、心地くてすぐ寝付いてしまいました。

 ですから、レオがそっと囁いていた言葉の意味を汲み取ることは出来ませんでした。
 《綺麗な声だなぁ…》そう感じて、にこ…っと笑っただけです。

 そんなリヒトに、レオは肩を竦めるようにして苦笑しました。



*  *  *

 


「16歳になったら…お風呂に入ったり、こうして同衾していること自体にドキドキして貰えるのかな…?」
 
 《好き好き大好き》と、泣いてしまうほどに愛してくれるのですから、こんな事を残念がるのはレオの我が儘なのでしょう。生まれて十年にしかならない子どもが性欲を滾らせるなんて問題ですしね。

 百数十年を生きてきたレオですから、《俺と君との愛は意味合いが違う》と泣いたりはしません。だって、愛は年によって変わっていくものだからです。

「お願いだよ?リヒト…。俺が願うその通りでなくても良いから…どうか、俺が色んな意味で触れることを許せるほどの愛に育ってね?」


 まだ春の盛りを迎えるには早すぎる、一輪の花。
 彼を愛する人たちの中で大切に育まれるべき花。

 君がいつか自然に綻ぶ日を、待っていよう。


 レオは静かに微笑むと、眠る愛し子の唇にキスをするのでした。



おしまい






あとがき

 「螺旋円舞曲」のその後話。リヒトが大きくなりました。

 目の前で隠しきれないほどの愛と性欲(…)を放ちながらイチャイチャしている両親がいるので基礎知識があっても良さそうなモンですが、何しろDNAが有利と同一なのでエッチ方面の自覚は遠そうです。

 ガムバ★レオンハルト卿コンラート!
 あと6年で解禁だ!(黒うさ話にデジャヴを感じますな…)