「筋肉天使★グリ江ちゃん」C






 

 はぁ〜い!全国の(ちょっとマニアックな)コンユスキーの皆さんお元気かしらぁ〜?

 あたしはもうバッキバキに元気で困っちゃう〜っ!
 あらやだ、元気すぎてドレスの股間に特殊な茸が膨隆してきてるわ?イヤーンっ!

 それというのも…全部隊長のせいよ!ぷんぷんっ!!

 隊長ったら見えそうで見えない感じに陛下の生足を堪能してたでしょ?あたしったらそれが気になって気になって…ついつい、見えやすい場所に移動してたんだけど、丁度良いところにいつも隊長の頭があるのよっ!ムキーっ!!
 
『そこ退きなさいよーっ!』

 …と、叫びたいのは山々だけど、それはノンノン!

 口に出したが最後…あたしの茸はあえなく伐採されて、野晒しにされるか生ゴミ入れに投棄されちゃう運命なのよっ!
 いやーんっ!あたしの茸ちゃんはこれからが花なのよ!菌糸類だけどねっ!!
 沢山胞子を飛ばさなくちゃならないから、ここは一つ我慢の子よ。

 え?ああ、分かってる分かってる!胞子は坊ちゃんに飛ばしたりはしないわよ。
 あたしだって命は惜しいわっ!
 そんなことしたら、茸だけじゃなくてあたし本体が危険に晒されるものね。
 
 きっと、腹かっ捌かれて出てきた腸でもって、あたしは木の幹にぐるぐる巻きにされて、更に釘で留められちゃうわっ!
 やーん、動けない〜っ!
 え?そういう問題じゃない?



 それはさておき…あらあら、やっと坊ちゃんお目覚めみたいね。



*  *  *




「ん…ん……」
「お目覚めですか、陛下。眠気覚ましに紅茶でもいかがですか?」 
「んー…飲むぅ…」

 坊ちゃんが目覚めそうな気配を感じた途端に、隊長ったらすかさず足の上に布団を戻して、何事もなかったようにお茶を入れだしたわ。

 しかも、目覚めるタイミングを狙って、一杯目は飲みやすいように少し冷ましたお茶を…一息ついて、二杯目にはティーコゼーを掛けて保温してあったポットから、熱々のを注いでるわ。

 全くもう…嫌みなくらいの手回しの良さね!
 護衛として失業しても、執事として十分やっていけるわね。

 ああ…でも、隊長の天職って言ったら、地球で言うところのホストかしら?

『彼なら年間、億単位で稼げそうだよね…』

 なーんて、猊下も半ばマジな顔して呟いておられたわね。
 ま、坊ちゃんが許さないでしょうけどねー。
 あの方、意外と焼き餅やきさんだもの。

 そこが可愛いんだけどねー。

「コンラッド…そのポケットに入ってるの何?」
「ああ…手紙みたいですね。先程貰ったんですが…後で読みますよ」
「俺が寝てる間に読んだら良かったのに。待ってるあいだ暇だったろ?」
「いえ…あなたのお傍に控えている間に、俺が退屈することなどありませんよ。俺の瞳は…何時だってあなたに釘付けですから……」
「コンラッド…」

 坊ちゃ〜ん…その男、確かに釘付けでしたよ。
 ええ、ちょろちょろ体勢を変えながら、ずーーーーーーっと坊ちゃんの姿を目で追ってましたとも。
 でもねー、その姿を坊ちゃんが目にしたら、多分百年の恋も冷めますよ?

 
「ですから、この手紙は護衛を交代して、一人になってから読みますよ」
「そう…?でも……それってさ、最近入ったメイドさんからのだろ?早く…返事とかしてあげた方が良いんじゃない?」

 あらぁ…?坊ちゃんったら意外と目敏かったのね…勿論あたしは気付いてたけどね。

 そうそう、執務中にお菓子を持ってきたメイドが、素早く隊長のポケットに手紙を差し込んだのよ。間諜としてスカウトしたくなるくらい見事な手際だったわ。
 流石の隊長も、気付くのは気付いても、上手に突っ返すことが出来なかったものね。

 あらら〜…隊長、どうするのかしら? 

「ユーリ…」

 あら…あららら?
 陛下って呼ばずに、随分と雰囲気のある甘い声で囁いてるけど…その甘さも、いつもみたいな…でろっでろのじゃなくて、どこか酒精の混じりそうな…大人の意地悪さを滲ませてるわよ?

「それは…嫉妬?」

 うぉっ!隊長…珍しく直線的に来たわねっ!
 坊ちゃんったら、可哀想に真っ赤になって…嘴みたいに唇を尖らせてるわ。

「そんなんじゃ…」
「でも、嫌だったんでしょう?俺があのメイドから文を貰ったのが…」
「どうかなって…興味があっただけだよ。だって…コンラッドって…メイドさんのこと、よく可愛いって…言ってるじゃん……」
「まあ、確かに可愛いですけどね」
「……っ!」

 あぁ〜…どうしちゃったの隊長!
 坊ちゃんが泣きそうな顔してるわよ!?
 喧嘩になっちゃうんじゃないの!?

「可愛い…よね。ふわふわして、ひらひらして…女の子…って感じでさ。コンラッド…子どもとか、好きだもんね…ああいう奥さん貰ってさ…子ども沢山作ったりしたいなって、やっぱり思う?」
「いいえ、思いませんね」
「ホント?」
「俺は、あのメイドが好きなのではなくて、単にメイド服が好きなだけですからね」

「……はい?」

 あらら…隊長、突然のカミングアウト?
 ひた隠しにしてきた変態性をそんなところで明かして良いの!?

「ですが、あの子達に《その服が好きなんだ、触らせてくれ》なんて言ったら変態扱いでしょう?彼女たちにはさらさら興味がありませんから、絶対そんなお願いできないんですよね」
「でも…ヨザックならよくメイド服着てるじゃん。頼めば触らせてくれるんじゃない?」

 おおおぉぉお〜い…坊ちゃーんっ!
 恐ろしい提案しないでよっ!

「俺は、メイド服は完璧に着こなされた可愛いものにしか興味が無いんです。あんな糞でかいメイド服など論外です。勿論、俺が自分で着るなんてのも大却下ですよ。不気味ですからね」
「そっかなぁ…?」
「ええ…隠れた俺の趣味…ユーリだけに明かしたんです。他の者に教えたりしないでくださいね?」
「うん、絶対言わない。男の約束だよっ!」
「ふふ…やっぱりユーリは男前ですね。だから、ユーリには話せたんです」
「えへへぇ…」

 坊ちゃんたら可愛いわぁ…。
 照れ照れしてはにかんでらっしゃるー。

「でも…そんなに大好きなのに触れないって気の毒だよね。今度、こっそり小さいサイズのやつ貰ってこようか?」
「いえ…実は、一式持ってはいるんですよ。ですが…やはり、服というのは着てこその服ですね…。ハンガーに掛けたままだとちっともときめかないんです」
「そっかぁ…コンラッド、可哀想に…」

 坊ちゃん、ちっとも可哀想じゃないと思うグリ江は心が腐敗してるのかしら?
 何だか…作為的なものも感じるんですけど…。

「ね…ユーリ……。お願いをしても良いですか?」
「何?」
「俺が持っているメイド服…多分、ユーリならサイズ的にぴったりだと思うんです。男前なユーリにこんな事をお願いするのは恐縮なんですが…着て、貰えませんか?」
「えぇ…お、俺が着るのぉ!?」
「駄目…ですか?そうですよね。申し訳ありません…幾ら何でも不敬でした。ユーリが俺に、臣下として以上の優しさを見せてくださるからといって、調子に乗りすぎていましたよ」
「そんな…俺、あんたのこと臣下としてしか見てないなんてことないからっ!不敬とかそういうんじゃないんだっ!ただ…俺なんかが着たら、きっと不細工になっちゃうもん…恥ずかしいよ」
「着てみないと分かりませんよ?今夜にでも、二人きりで…ね?」
「うぅ〜…変でも笑わない?」
「笑うもんですかっ!」
「んー…じゃあ、他の誰にも言わないでくれるなら…良いよ?」
「良かった…。では、今夜はヴォルフとグレタにはそれとなく、ユーリの部屋に行かないよう根回ししておきますね」
「うん」

 ああぁぁぁあああああ………やっぱり、隊長だわっ!
 《ご利用は計略的に》…ってやつねっ!
 
 さあさあ皆さん、今夜…魔王居室で何が起こるのかお楽しみにっ!
 黒いたぬき缶の上蓋は開くのかしら!?(プルトップで開くパッ缶構造よっ!)



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