「ウェラー卿の奮起」

※「虹を越えていこうよ」と「迦陵頻伽の檻」の間の話です。



 






「お話にならないね」

「猊下…」

 卓上に放り出された書類がばらりと広がり、羊皮紙に書き記された美しい筆記体…眞魔国公用語句の群れが、華麗な敷布のようにマホガニー調の卓を彩る。

 眞魔国の誇る智慧の化身(一部では腹黒さの権化とも呼ばれているようだが)大賢者村田健は、愛らしい顔立ちに人好きのする笑みを湛えたまま、目の前の男を罵倒した。

 一体何処から光線が差してくるのか不明だが、強烈な眼鏡の反射が眩しい…。

「君ねぇ…たかだか報告書類ひとつで、どれだけ僕の手を煩わせるつもりだい?」

「は…。誠に申し訳ありません」

 ぴしりと折り目正しい軍人式の礼を捧げると、コンラートは不満げな気配一つ掠めさせることなく、慇懃な態度で謝罪の意を明瞭に示した。

 内心どう思っていようと、指摘の切り口を掴ませない完璧な作法は流石と言えよう。

「む…村田…。もー書き直し8回目だぜ?そろそろこの辺で手を打って…」

 村田の底冷えのする笑顔のせいだろうか、有利の語調は彼らしくもなく《おずおず》…といった感じで、反論されることを最初から予感しているようであった。

 そう…コンラートが書き直すのも8回なら、有利が取りなすのも8回であり、その都度、村田の笑顔の形をした恐怖は深みを増していくのだった。





 四大要素の力を掌握した有利が眞魔国に帰り、地球生活との行きつ戻りつという、ある意味非常に《懐かしい》形態の生活を送るようになってから暫くのこと…。コンラートは村田の指示で、ある国境付近の地域…諸卿の領土ではない、人間世界からの難民達が暮らす集落へと視察に赴いた。

 そして、一週間の滞在の後にその地域の現状と、生活環境改善にむけた取り組みを纏めてくるように言われたのだが…有利の目から見れば目が醒めるように鮮やか、かつ堅実に見える方策も村田の目から見ると実に不満足な出来であるらしく、合格点以前に、まともに読んで貰えないような有様であった。





「何言ってるんだい?渋谷…君の生涯の伴侶がこの程度の報告書しか作れない男で良いって言うのかい?」

 《生涯の伴侶》…その言葉に、かぁぁ…っと有利の頬は染まってしまう。

 眞魔国に帰って来るなり、出迎えてくれたグウェンダルとの仲を誤って報道されそうになったからとはいえ、取材陣を前に堂々とコンラートとの仲を公表したのは誰在ろう渋谷有利当人であるので、反論の糸口は《くきゅう》と途切れてしまう。





 あの後…考え無しだと散々絞られたのだ。

 村田曰(いわ)く…グウェンダルの安定した治世が続いていた眞魔国では、有利の帰還を表面上は祝いつつも、《異世界生まれの混血王》たる有利の治世に対しては、不安を覚えている諸侯がそれなりの勢力を形成しているらしい。

 そんな連中に対する手札として有効なのは、《魔王の伴侶不在→まだ食い込める余地はある》と思いこませることであったのに…それを有利は無にしてしまった。

 しかも、その伴侶候補もまた混血とあって…態度が硬化する諸侯も早々に出始めている。

『でも…村田ぁ……俺、コンラッドとのこと隠したり、他の誰かに《結婚して》って迫られたりすんの…ヤダよ……』

『その程度のことも耐えられなくて、王様業をやっていくつもりかい?』

 大賢者様は袈裟懸けに王様を斬ってくれるのだった…。

 



「でも…俺は……凄くよく書けてると思うんだけどな……」

「君がどう思おうと、僕は納得していない」

 ふわりと花が綻ぶように微笑むくせに、村田の背後にはダイアモンドダストが透けて見える…。

 氷原の貴公子が小宇宙(コスモ)を燃やしているかのようだ…。

「ユーリ…良いんです。猊下!早急に書き直しますので、今暫くの猶予をお許し下さい!」「ふん…どうだかね。ま、せいぜい頑張ってよ。頑張ったら報告書の精度が上がるというならね」 

 ひらひらと舞う…しなやかな手首の動作が、コンラートと有利にとっては酷く胸を抉るのだった。



*  *  *



「あーあ…村田の奴…何だって今回はあんなに手厳しいんだよ?」

 卓上に蒔かれた書類を回収した二人は、とぼとぼとした寂しげな足取りでコンラートの居室に戻った。

 ここ数日有利は泊まり込みでこの部屋に滞在しているが、コンラートの就寝を待てずにうたた寝してしまい、気づかない間にベッドに横たえられるという展開が続いている。

 勿論、その間もコンラートは必死で報告書作成に努めねばならず、横で愛らしく寝息を立てたり、しどけない姿で寝返りを打つ恋人に触れることも出来ない(ちょっと大袈裟な表現かも知れない。ちょっとは…触ったりは、している…)。

「すみません、陛下…俺が不甲斐ないばっかりに…」

 村田の駄目出しのせいなのか、有利に触れられない(正確には、コンラートが満足するくらい触れない)せいなのか不分明なところであるが、コンラートは影の差す目元を力無く伏せるのだった。

 心なしか面差しが窶れ、表情にも渋みが混入しているようだ。

「ナニ言ってんだよ、お父っつぁん…じゃない、コンラッド。つか、部屋の中じゃ陛下って言うなよ。ん…ふぁ……」

 対する有利のコメントもややキレが悪い。

 彼としては夜間、限界まで付き合って起きているため眠くて堪らないのだ。

「本当にさ…村田の奴、何が不満なのかな?コンラッドにどういうコトを求めてんのか、教えてもくれないんだもん」

 有利はベッドにごろんと横になると、欠伸混じりにコンラートの報告書に目を通した。

「そこをこそ考えろと言うことかも知れませんね…」

 コンラートの眉間には兄譲りの皺が寄せられ、凛とした長い睫が頬に影を落とす。

「猊下は、俺を試しておられるのだと思います。あなたの伴侶として、俺が本当に邪魔にならない存在であるのかどうか…」

「…………邪魔だって思われたら、どーなんのかな……」

「最悪、闇から闇へと葬られる可能性も……」

「いや、あんた村田を一体なんだと……」

「あなた以外には情というものを示さないお人かと」

「いや…うん……まぁ……そんなに間違っちゃないけど……」

『ゴメン…村田……あんまフォローできなかったヨ……』

 有り難いというか、怖いというか…村田は端から見ている以上の重みで有利に情を掛けてくれているらしく…その分、有利以外の者については《どうでもいい》と思っているらしい。

 コンラートに対しては《どうでもいい》以下の扱いで、

『君…魔王陛下の足を引っ張るようなら、《前魔王の息子》だの《ルッテンベルクの獅子》だのといった肩書きは意味を成さないと弁えておきなよ?』

 と、公言して憚らない。

「うーん…でもさぁ……それじゃ、ひょっとしてコンラッドが気にくわなくて難癖つけてるだけなんじゃないの?」

「それこそ猊下のことを一体なんだとお考えで?」

 コンラートが悪戯っぽく笑えば、有利はへこりとして詫びた。

「ん…そーだな。あいつ、そういう不条理なことはしない達だよな。無駄に意地悪な訳じゃない…。面倒くさがりでもあるから、本当にコンラッドを苛めたいだけならもっと無理難題おしつけてくるよな」

「ええ…だからやはりこれは、意味のある試練なのだと思います」

「そっかぁ…コンラッド、凄ぇ前向き」

「あなたのおかげですよ、ユーリ…」

「俺の?」

 きょと…と小首を傾げれば、慈しむような眼差しが惜しげなく注がれ…大きな掌がすっぽりと有利の頬を左右から覆ってしまう。

「あなたに相応しい者になりたい…そう願いながら行う作業は、遣り甲斐があります」

「こ…コンラッド……」

 思ったままを面と向かって口にするコンラートに、有利はいつも頬を染め上げられてしまうのだった。

「傑出した魔王として、あなたの名を永遠のものにするためにも…俺は頑張りたいんです」

 そこでふと…コンラートの目線が宙を彷徨った。

 何か…思考のどこかで引っかかった何かが、もどかしくふにふにと揺れているかのような表情を浮かべ、

 そして…

 

 ぱちん…と、目の前でシャボン玉でも弾けたみたいな顔をしたかとおもうと…コンラートは、突然清々しく微笑んだのだった。

 それは緑の梢にかかる白い蕾が、ふわりと綻ぶように鮮やかな笑みであった。



「ユーリ…あなたは、俺の計画をどう思われましたか?」

「え…ええ?そりゃあ…凄い良い計画だなって…」

「いえ、ユーリ…確かあなたは昨日の夜、少しだけ首を傾げて何かを言いたそうにしておられませんでしたか?」

 どうしたのかと聞こうと思ったのだが…次の瞬間にはゆるゆると眠りの波動に捕まりかけていたので、そのままベッドに横たえてしまったのだった。

「う…見てたのかよ。でも…大したことじゃないんだぜ?」

「それでも良いんです。どうか…教えて下さい」

 コンラートの眼差しは釈尊に教えを請う信者のように純粋で…そして、熱かった。

「んー…あのさ、コンラッドの計画って凄く手厚いよね。何重にも配慮がされてて、凄いなって思ったんだけど…でも、あれだといつまで経ってもあの地域の人達は自立できないんじゃないかって思ったんだよ。それに…ああいう状況のトコロって他にもいっぱいあるんだろう?だとしたら、一カ所にあれだけ手厚い保護をするのってどうなのかなって…」

「自立…」

「うん、何て言うか…時間は掛かっても、あの地域の人達自身が地域の防衛にしても経済のことにしても管理していけるようになったら、もっと良いんじゃないかって思ったんだけど…。でもさ、俺には具体的にどうして良いのか分かんなかったら、恥ずかしくてとても言えなかったんだ」

 《自立》…それは言うに易く、行うには実に困難の伴う事であろう。

 ただ救援の手を差し伸べることは、予算さえあれば出来る。

 だが、自立させるためには長期的かつ計画的な支援が必要であり、手だては一層複雑なものになる。

 それでも…有利には、それはとても大切なことではないのかと思うのだ。

「自立…そうか…」

 コンラートの頭蓋内で、凄まじい早さで何かが計算されていくのが分かる。

 武芸一般で知られるコンラートではあるが、実のところ…政治面の能力もずば抜けたものであることが、眞魔国に帰ってきてから有利が知ることになった特性の一つである。

 彼の中には様々な要素を有機的に結合させていく力があり、ことに、ひとたびゴールを設定した後の具体策計上の仕方にはめざましいものがある。

「猊下は…まず、あなたの意図を汲むべきだと仰いたかったのではないでしょうか」

「俺の意図…って、そんな大層なもんでもないけど」

「いいえ…考えてもみれば、お恥ずかしいほどです…。俺はあなたを王として支えたいと言いながら、その実…あなたが何を求めているか聞こうともしなかった。これは、あなたの臣下としては重大な過ちです」

「うーん…」

 何となく、常にコンラートは自分のことを思ってくれていると感じていたので問題がないように思っていたが、言われてみれば確かにそういうむきもある。

 この男は、《ユーリのため》といいつつ、有利が最も望まない行動…彼から離れるという過ちを、過去にやらかしているのだ。

「それから…猊下は天領を固めようとしておられるのかも知れません」

「テンリョー?」

「陛下御自らが統括される土地のことです」

「俺がぁ?」

「ええ…領土の全ては王たるあなたのものであるとはいえ、税収の全てが上がってくるわけではありません。十貴族をはじめとする諸侯の面々は長い世代をかけて引き継いできた領地を所有しています。幾らかは国庫に税としてあがってくるものの、かなりの部分が諸侯の懐に入ります」

「はー…直接お金が入ってくるようにすると…」

「地球育ちの陛下には…」

「陛下言うな」

「すみません…今は王としてのあなたの立場について、お話ししているので…」

「……んー、じゃ…しょーがないや」

 そう言われれば、不承不承ながらも頷くしかない。

 コンラートは今、王としての有利のために脳細胞をフル活動させているのだ。

「地球育ちの陛下には、そのような領土がない。かといって、現在他の諸侯が治めている領土をむしり取ったりすれば必ず衝突が起こる」

「領民の人達だって混乱するよね」

「ええ…そう。もうひとつの問題は民の問題なんです。彼ら領民としては、魔王よりも領主の方をより近い存在に感じる。これは、直接税を納める対象に自分が属していると感じるからです」

それは、諸侯が反旗を翻したときに最も問題になるわけだが…そこには敢えて触れないことにした。

 コンラートとしても対策は常に布陣しておこうと思うものの、流石に国内での内乱を予言して騒ぎ立てるのは気が引けたのである。

「ですから、陛下がより安定した治世を続け…諸侯が旧態然とした態度を見せても決然として改革を推し進めるためには、彼らを納得させるだけの独自の力が必要なんです。俺やグウェン…ヴォルフの領土ではなく、あなた自身の領土が。それも、分散した地域にあっても《王の民である》という意識を持ち、事あらば馳せ参じるという意識を持った、自立した民が…。ですが、そんな人々を育成しようとしてあまり手厚く施しを行っては国庫が疲弊するし、諸侯も警戒する。それを避けるためには、多少苦しい状況の中でも自立して開拓していけるだけの技術とハードウェアを提供すべきなんだ…」

「で…できんのかな……」

「やります」

 きっぱりと言い切るコンラートの脳裏には、既に青写真が出来上がっているようだ。

「そっか…できるんだ…」

「ええ、やります…やらせてください…。俺は、ユーリの領土を…盤石な領土を造り上げて見せます…っ!」

「やっとユーリって言ったな?」

 ぱあ…っと有利の顔に閃くような笑みが浮かび、小さな拳がぽんっとコンラートの胸を叩く。

「ええ…今は、個人としてのあなたに捧げたいと思っていますから…っ!」

 公人から私人へと鮮やかに転身したコンラートは、華奢な恋人の身体を力強く抱きしめると、清々しい面にそれだけではない…明瞭な艶をのせて、有利の唇を情熱的に貪るのだった。



*  *  *




「猊下…お疲れですか?」

 目に眩しいピンク色のメイド服に身を包み、ヨザックが手慣れた動作で紅茶を煎れる。

「見て分かんないかな?」

「あー…お疲れですね。精神的に……」

「肉体的にもきついよ。あの連中…僕の胃を随分とむかつかせてくれたからねぇ…」

 血盟城に宛われた村田専用の居室には、燦々と初夏の陽光が照り映え…窓辺からは鮮やかな新緑がゆらゆらと眠気を催すような穏やかさでうつくしい陰影を室内に投げかけている。

 …にもかかわらず、《不機嫌》、もしくは《疲労》という名の彫像のように村田健は項垂れている。

 何しろ、先程まで鬱陶しいほどの《ピュア攻撃》に晒されていたのだ。





『猊下…俺は目が醒めました!』

『ありがとうな、村田!お前…俺の未来のこと、そんなに気に掛けててくれたんだなっ!』

 目をきらっきらさせた連中が、何故だか妙につやっつやした顔色で詰め寄り、有無を言わさず報告書を押しつけてきたのだ。

『ここに…俺の忠誠心と能力の全てを詰め込んであります…っ!』

『コンラッド…』

 そうしてじっと見つめ合う二人………。

 その時、村田の心にあったのは、《一刻も早くここから出て行って貰おう》という想いだけだった。





「全く…」

 こく…っと紅茶を一口含めば、芳醇な味わいと鼻腔を燻らす香気にやっと人心地つくことができた。

 ヨザックの恰好には一言も二言も言いたいことがあるが、とりあえず、紅茶を煎れる腕前だけはそこらへんのメイドには真似の出来ない匠の領域だと思う。

「眞魔国に帰ってからってものの、やたらとイチャイチャしてくれるもんだから腹立たしくて苛めてやってたのに…思わぬ形で返り討ちにあったよ」

「ははは…猊下ってば…」

 《可愛いなぁ》…等というと恐ろしい目に遭いそうなので、曖昧に口の中でもごもごすると、ヨザックはミルクレープを綺麗に切り分けた。

 コンラート達も食べるだろうと思って大きなサイズを用意していたのだが、あの連中が早々に叩き出されてしまったので、ヨザックの得意料理は大賢者様のお口を楽しませるだけになりそうだ。

 まあ、眞魔国に威光をはなつ高貴な方に味わって貰えるわけだから、十分とも言えるのだが。

『この方は、悪意には数百倍の悪意で報いる方だけど、純粋な感謝の念を真っ向から受けると戸惑ってしまわれるんだろうな…』

 恐ろしい方だとは思いつつも…そういう少年らしいはにかみ具合が、ヨザックにはなんとも可愛らしく映る。

「おや…メイドさん、一切れしか切り分けないのかい?」

「へぇ…?他にお客様でもおありで?」

 素っ頓狂な顔で問えば、村田の頬に軽い苦笑が浮かぶ。

「一人きりでこんなに食べられないよ。僕はそんなに大食漢じゃない」

「……ご相伴にあずかってよろしいんで?」

「そういうこと」

「それじゃ、お言葉に甘えて…」

 ちょっと恐れ入りながら…ミルクレープを切り取って皿に分け、ちまちまとした動きで対面席に座るヨザックは、その筋肉質な体格の割に奇妙な愛嬌を漂わせていた。

『なんだろうねぇ…よっぽど疲れてるのかな?』

 こんな筋肉達磨のさり気ない労りや仕草に癒されてしまうなんて…。

 よほどあのバカップルのきらきら攻撃が効いているらしい。

「美味しいですか?」

 フォークに取った一切れをぱっくりと口に含めば、ヨザックが上目づかいに問うてくるから…村田は満足そうに微笑んだ。

「うん…君のその恰好はともかくとして、お菓子作りと紅茶を煎れる腕前だけは立派なものだね」 

「恐れ入ります」

 皮肉げな言い回しながら、これが彼にしては最大限の褒め言葉だということを知っているヨザックは、恐縮しつつも…にまにまとした笑みを浮かべてしまう…。

 この手厳しくも愛らしい方に褒められることは、何とも言えない喜びを与えてくれるのだった。

「ん…美味しいな」

「そりゃあ光栄至極ですねぇ」

 大賢者の居室に、風景に見合ったやわらかい空気が流れていく。

 その中で、ようやく目を通す気になったのか…村田がティーカップ片手に報告書を捲りだした。

「ふ…ん……」

「どうです?出来の方は…」

「ま、有り体に言えば大したもんだよ」

 《忠誠心と能力の全てを詰め込んで》いるだけのことはあるということか。

「やりますねぇ、隊長も」

「そうだねぇ…そうであってくれなきゃ困るとはいえ、あんまり出来が良いともっと不条理なことで苛めてやりたくなるな」

 村田としては、コンラートが有能でも無能でも腹立たしいことに変わりがないらしい。

 無能なら当然、有利の傍に立つ者として許さないが…有能なら有能で苛め所を見いだしにくいという理由で腹立たしいのだ。

 所謂、《嫁虐め》のような感覚であるらしい。

 恋愛感情ではないとはいえ、有利を大切に思うからこそ…自分が彼にとっての一番でないと言うことがなんとも不快感を誘うらしい。

『そしたら、不機嫌になる度にケーキを焼いてさしあげよう』

 ミルクレープだけでなく、ヨザックにはまだまだ得意料理がある。

 それを全て焼いて…いや、もっともっと村田の好きなケーキを覚えて、喜んで貰おう。

 それがどういう気持ちから出ているのか、まだヨザックには自覚がないのだけれど…村田のためにケーキを焼くことを考えると、とても楽しみな自分がいるのだった。

 

 穏やかな陽光を受けながら…血盟城の一室には、新たな恋の芽生えが訪れようとしていた。





おしまい






あとがき



 夕星様のリクエストで、「迦陵頻伽に入る手前時点の地球で、村田の嫁(?)苛めに耐える白コンを有利が護り、村田をヨザが慰め話」(小話)…て、あ…っ!!ち、地球の話でしたっけ!?書き上げてから今気付きましたーっ!!



 あああ…地球設定での嫁苛めとなると、ひょっとして話の展開も期待して頂いたのと違うかもーっ!!

 す、すみません…一番に申し込んで頂いたのにっ!



 夕星様にはいつも暖かいコメントを頂いており、ほっこり気分にさせて頂いてるのにすみません…っ!

 もし、期待してらしたのと大きく違うようなら言ってくださいね〜。書き直します〜…。