[Aバージョン]  

 

「ユーリ…俺はあなたと仲良しでいられることに、沢山のありがとうを言いたいのですよ!」
「コンラッド…」

 有利はコンラートと手を握り合ったまま、うっとりと見つめ合っていたが…やがて、人の気配を感じるとあわあわとフードを被った。
 それでも、ちいさな声でコンラートに呼びかけると、きゅう…っと軍服の裾を掴むのだった。

「えへへ…一緒に、城に帰ろうな!」
「ええ…」

 《帰る》…そう言い交わして帰路に就くことが出来る喜びを、何と表現したらいいのだろうか。
 コンラートはそっと有利の手に自分のそれを重ねながら、胸に満ちてくる幸福感にひたるのだった。

『ジュリア…俺は、幸せな男だと思う。君のことを忘れられなくても、その事を辛いと思わなくて済むようになったんだよ』

 いま手の中にあるこの温もりが、コンラートにとっての幸せの全てなのだから…。

 見上げれば広い空に何処までも続いていくような鱗雲が広がり、その端が少しずつ蜜柑色に染まっていくのが分かった。

「さぁ、急ぎましょう…暗くなる前に戻らなくては、ギュンターが悶絶して転げ回りますよ?」
「あ…いっけね!晩餐までに戻んなきゃ流石にバレるよな?」
「ええ…飛ばしますから、落ちないようにしっかり掴まっていてくださいね?」

 コンラートはそう言うと、厩舎に繋いであった愛馬ノーカンティーに有利を乗せて、背後から抱きかかえるようにして支えると一気に駆け出した。

「はわわ…っ!は…速…っ!」
「掴まっていて…ユーリっ!」
「うん…っ!」

 胸の中で弾む華奢な体躯を抱きしめるようにして、コンラートは秋の夕暮れの中をひた走っていく。


 一陣の、風のように。




おしまい


あとがき

 
 「拍手文に求めるネタ」のアンケートで「正規設定コンユin眞魔国」が一番需要がありそうだったので、感謝の意味で書く話には良いかな〜と思い、このような話にしてみました。