[Cバージョン]



「ユーリ…俺達は、《こ・れ・で〜いいのだぁ〜♪》…」

 突然コンラートの口にした、何かの物真似らしき台詞にすぐには反応出来ず、有利はぽかんとして小首を傾げていた。

「…おや?分かりませんか?《レ〜レレ〜のレ〜》と言いながら箒を掃きまくる老人や、丈の短い浴衣を着た子どもが出てくるアニメーションの台詞だったと思うのですが…」
「あー、天才バカ○ンねっ!分かる分かるっ!」

 週末のファミリータイムを狙った特番で、そう言えばそんなキャラクターが出てくるアニメを目にしたような気がする。きっと、《親子バカ》という単語が出たから、コンラートはそこに絡めて来たのだろう。

「ああ良かった!では、OPの歌も謳いましょうか?《西から昇ったお日様が、東〜に、しずぅむぅ〜》《タイヘ〜ン》…」
「あー、良いよ良いよコンラッド!これ以上はあんたのイメージ崩れちゃうからさ。あはは…そんなに俺に気ぃ使うことないって!」
「そうですか?」

 内心、《それで〜良いのだ〜》…に続くサビ部分をひとしきり唸りたかったコンラートは、ちょっぴり残念そうに歌い止めた。

「もー、コンラッドってば色んな情報持ってるのは良いけどさ、あんまりなんでもかんでも出しちゃダメだぜ?異境の地で俺が寂しかろうと思っていってくれるなら、是非野球ネタでお願いします」

 それはそれで楽しい会話が成立するのだが、正直なところ…有利が乗ってきてくれるようなら《タイムボカン》辺りも歌いたかったコンラートとしては残念なところだ。

「でもさ…そうやって気ぃ使ってくれたりするところは、やっぱ好きだなぁ…。グウェンとかヴォルフとか、そういう気づかい全然無いもん」

 にこ…っと有利が綺麗に笑うから、コンラートは今度…思いきってもう一つの趣味も有利の前で披露してみようかな…と思った。

 こぶしの利いた駄洒落は、有利の気に入るだろうか?
 やはり小粋なアメリカンジョークが良いか?
 それとも古式ゆかしき親爺系のネタが良いだろうか?

『ジュリア…俺は、幸せな男だと思う。君のことを忘れられなくても、その事を辛いと思わなくて済むようになったんだよ』

 地球に行って、コンラートは沢山のことを知った。

 眞王の意図などお構いなしに、息子と妻の幸せを最優先に考える父親。
 勇ましく子どものために闘う母親。
 そんな人達がコンラートの待つ子どもの両親だということ。

 秀逸なセンスのギャグ漫画。
 パンチの効いたテーマソングを持つジャパニメーション。  
 腹を抱えて笑える駄洒落メドレー…。

 そしてなによりも愛おしい、この渋谷有利という存在…っ!

『こんな素晴らしいものに出会わせてくれた君に、今は感謝の思いだけがあるんだよ』
 
 有利の手を取り、年の差カップルの様に楽しげに歩いていくコンラートの背に、もう昔のような影は一欠片も見受けられないのだった。

おしまい


あとがき


 コンラッドの影は…実はちょっとくらい残っていた方が恰好良いかも知れませんね。
 物凄く、本人は楽しそうではありますが…。