「あなたがいてくれるってことが、とっても素敵なこと」 年末年始は出費がかさみますから、素敵なクリスマスやお正月を過ごすために、それはそれは頑張って働いたのです。 それこそ朝から晩まで、くたくたになるまで働きました。 ですから、流石に若くて元気な茶うさぎでも、どうにもこうにも疲れてしまったのです。 夜遅くになりましたから、吹き付けてくる風はぴゅうぴゅうと身を切るような冷たさですし、辺りは真っ暗になって寂しい感じです。 しかも、茶うさぎはおうちに帰り着いてから食事の支度もしなくてはなりません。 いっしょに暮らしている黒うさぎとは結婚を約束していますが、若奥様を通り越して激しく幼妻な仔うさぎですので、せいいっぱい頑張っても食事の下ごしらえしかできません。 以前、独りで暮らしていた頃にはこうではありませんでした。 くたくたになるまで働いた時は、《疲れたなぁ》と思えばそのままベッドにばたんきゅーで転がりましたし、お腹がすいたなって思ったら、ベッドの中で硬くなったパンや乾し肉を囓っておしまいにしていました。 『おやおや、早まってちっちゃなうさぎなんかと結婚するから苦労するのよ。ちゃんと掃除洗濯がてきぱき出来て、お料理上手な娘うさぎと結婚すれば良かったのに!』 …ですって? いえいえ、そう決めつけるのは早計ってものですよ。 だって、まっすぐ歩けないくらい疲れ果てているくせに、おうちに近づいて行くに従って、茶うさぎのお顔にはほっこりとした喜びが満ちあふれていくのです。 それは、道で擦れ違うさぎまでしあわせな気持ちにさせる笑顔でした。 だって、黒うさぎに出会うまでの茶うさぎは唯《生きている》為に生きていたのです。 ですが、今では《黒うさぎと生きる》為に生きているのです。 耳で聞いた感じは似ていますが、これって全然違うことなのです。 だって、自分のためだけに生きている時にはこんなにふくふくとした幸せを感じたことはありません。 きっと何もかもが完璧に出来る娘うさぎと結婚したって、《楽に生きる》だけで、決してこんな風に《楽しく生きる》って訳にはいかなかったと思うのです。 ええ、これも字で書いた感じは似ていますが、まるっきり違うことなのですよ? さあ、黒うさぎが待っているお家の灯りが見えて来ました。 ちいさなお家のちいさな灯りですのに、どうしてこんなに明るく…暖かそうに見えるのでしょう? 街に沢山溢れている灯りのひとつですのに、茶うさぎにとってはたったひとつかけがえのない灯りなのです。 とったかたったっ…っ! おやおや、扉の向こうから飛び跳ねるような音が響いてきますよ? ばぁんっ! さあ、勢いよく鉄砲玉みたいに飛び出してきたのは、可愛くてたまらない黒うさぎです。全身をバネみたいに弾ませて、ぽぅんと茶うさぎの胸に飛び込んでいきます。 「コンラッド、お帰りなさいっ!」 「ただいま…ユーリ」 きゅうっと抱きしめたぬくもりが、冷えた身体をみるまに温めていきます。 「外は寒かったでしょ?さあ、すぐ火にあたって?」 「それよりお腹がすいたでしょ?すぐに食事の支度をしますよ」 「おれは平気だよぉ…」 そうは言いつつも、素直な仔うさぎの身体は可愛らしく《くきゅう〜…》という音を立ててしまいますので、ぽんっと黒うさぎの頬は染まりました。 「う…う。お、お腹はすいてるけど…でも、コンラッド疲れてない?」 「いいえ、疲れてなんかいませんよ」 まるっきり疲れてないなんて言うと嘘になりますけど、お仕事が終わった瞬間のどよんとした重さに比べたら、吃驚するくらい身体が軽くなったのは本当です。 「さあさあ、すぐに暖かくておいしくて、栄養がいっぱい詰まったごはんを作りますね」 「うん、おれも手伝うよっ!」 こうして二羽は仲良く食事の支度をしましたとさ。 君がいるからたくさん頑張らなくちゃいけないけど、君がいるからたくさん頑張れる。 いつもいつもありがとう。 こんなにしあわせな気持ちにしてくれて、本当にありがとう。 明日もきっと、頑張れる。 おしまい
あとがき 珍しく仕事が忙しい時には、ふらふらしながら家に帰る途中、「今日は無理。もー無理。晩ご飯は卵掛けご飯とみそ汁で終了ですよ」と思うのですが、9割方は家に帰るに従って軌道修正しておかずを作る方向に向かいます。 やっぱり、子どもがよく食べるので食べさせるの楽しいです。 自分一人だったらさぞかしバランスの悪い食事してたろうなぁ…と思います。 いや、今でも1割くらいは疲労に負けて「今日は頑張らない日にします」と宣言して卵掛けご飯にしたり、出前頼むこともあるんですけどね(汗) コンラッドなら有利の姿を思い浮かべるだけで全ての疲労が押し流されそうなイメージがあります。絶対卵掛けご飯で済ませないんだろうな…偉いな、コンラッド(←勝手な妄想に感心) |