たぬき缶サイト設立4周年記念話−1
〜虹を越えていこうよ〜
「かたおもい×2」








 これは眞魔国第27代魔王ユーリ陛下が、ウェラー卿コンラートに絶賛片思い期間中のお話。



*  *  * 




 渋谷有利17歳高校2年生男子は、現在素敵な片思い生活である。
 お相手は《ルッテンベルクの獅子》、《剣聖》と讃えられる英雄、ウェラー卿コンラート。

 有利は文化祭の折に銀狼族の高柳鋼から強姦されかけ、死にかけたわけだが、必死のぱっちの抵抗を見せてこれを打ち破った上に、彼ら一族を救うことまで出来たので、事件としては後味スッキリというところであった。だがしかし、如何せん、恋心の方はちっともスッキリしていない。強姦未遂というショック療法のおかげ(?)で、鈍チンの自覚がある有利もやっとコンラートへの想いが《下心っていうか、シモゴゴロ込み》の《肉体的接触万歳なお付き合い》、ぶっちゃけ《ヤっちゃいたいんですよ》な関係希望であることに気付いたわけだが、それを口に出して言うわけには行かなかった。

 《思い立ったが吉日》タイプの少年である為、これまで《あ、こいつ好きかも》と思えば基本的に一週間と置かず告白してきたのだが、今回に限ってはそんな思い切った行動には出られない。

 何故かと言えば…。

「ユーリ、おやつの時間ですよ。今日は俺がパイを焼きました。どうぞ召し上がって下さいね」
「も〜、コンラートさんったら本当にお上手なのよ!いつでもお嫁に行けるわねぇ〜」

 語尾にハートマークだの音符マークだのを散らしながら居間に突入してきたのは、すっかり気心の知れたコンラートと美子である。お揃いのピンクのエプロンが、色んな意味で目に眩しい。

 剣聖自ら切り分けたパイは見事な断面を見せていて、美子が半年漬け込んだダークチェリーが良い色と芳香を放っている。見るからにサクサクとした生地も実に美味しそうな出来映えだ。

「うわ〜、美味しそう!生地から作ったの?」
「ええ、ユーリはサクサクの生地がお好きでしょう?本職のパティシエが作ったものも勿論美味しいでしょうけど、やはりパイは作りたてが最高かなって」
「嬉しい!」

 にっこりと微笑めば、コンラートは実に嬉しそうに相好を崩す。微かな希望を繋ぎ続けて、5年間のあいだ魔石を集め続け、奇跡的に地球へと辿りついたコンラートは、確かに有利を愛していてくれているのだと思う。

 だからこそ、告白し難い。

『こんだけ俺に対してデロっデロに甘い奴だもんな。《エッチしたいくらいあんたのことが好き》とか言いだしたら、即日股開いて《オッケーカモンベイベー》とか言い出しそうだよな』

 それがコンラートの本心ならば勿論嬉しいのだが…いや、それはそれで本心には違いないのだろうが、彼の場合は自分自身が望んでいない形の関係であっても、有利が望みさえすれば、さも《元々の望みでした》と言わんばかりに乗ってきてくれそうだと言うことだ。

『でもなー、コンラッドに気付かれずにソノ気があるか探るって、俺には至難の業なんだよな…』

 剣の道で達人を極めているせいなのか、元々の気質なのか、コンラートはかなり聡い。空気は読みまくるし(ギャグが滑るのは彼なりに滑り芸として極めようとしているのだと…)、気遣いは細やかだし、こっそり有利が潜む気配なんてバンバン読みまくりだ。

『どうやって探れば良いのかな?』

 これが、ここのところ有利が抱き続けている悩みであった。



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『どうも最近、ユーリの気配がおかしい』

 今も、コンラートが焼いたダークチェリーパイを美味しそうに頬張ってはいるのだが、時折、ちらちらとこちらに視線を送ってきたかと思うと、目が合いそうになった途端にスイっとそっぽを向いてしまう。

 心なしか紅く染まった頬は、日本の誇る可憐な果実、極上の佐藤錦を思わせる。つるんとしてピカピカで、深みと透明感のあるえも言えぬ紅にそっと唇を寄せたくなるのだが…やったが最後、コンラートの下心を見抜かれてドン引きされそうだ。正直、我が師匠ながらフォンクライスト卿ギュンターのような扱いを受けるのは嫌だ。(←正直すぎ)

『…俺は何かしでかしただろうか?』

 何時でも何処でも有利に懸想して、《あのツルンとした茹で卵肌を撫でたいな。できれば、頬擦りもしたい》とか、《乳首が可愛い。指先で摘んだり、舌先で転がしたいな》なんて欲情滾らせていたのが、何かの拍子に感づかれたのだろうか?
 一応、有利の前では直裁に突っ込みたい(←何を…)欲望については感情野に登らないようにしているのだが、無意識に表出していたのか?

 正直、疚しい心当たりがいっぱいでドキドキする。

 けれど鍛え上げられたポーカーフェイスを生かして、動揺は示さないようにした。万が一感づかれていたとしても、上手にシラを切り通せば誤魔化せるはずだ。有利は良い子だから、重箱の隅を突くような追求はしないはずだ。

「ユーリ、美味しいですか?」
「うん、すっごく美味しい。あんたも早く食べなよ」
「ユーリが食べたいだけ食べたらね」
「ワンホール食べたりしないよ!せいぜい二切れくらいだって。ほら、食べて食べて?あんたと一緒に《美味しいね》って言い合う方が、一人でぱくつくより美味しいもん」

 実は美子も勝馬も横で食べているのだが、世界は二人の為にあるモードなのかなんなのか、彼らにはアウトオブ眼中であった。

「では、頂きます」

 遠慮がちに小さく一切れ切り分けると、形良い唇の間に差し入れてサクリと噛みつく。フォークで上品に切り分けるのも良いが、《サクサク感を味わう為には齧り付きが最高!》との持論を展開する有利に倣って、白い歯を立てる。
 うむ。甘さ控えめでジューシーなダークチェリーと、サクサクのパイ生地が絶妙なコンビネーションを見せている。

 満足そうに咀嚼していたら、有利がくすくす笑いながら指を伸ばして、口の端を拭ってくれた。

「珍しい〜。あんたが顔を汚すなんて!」

 ぺろん。

 薔薇色のちいさな舌が、深紫色の蜜液を指から舐め取る。その仕草を至近距離で眺めることになったコンラートは、軽く前屈みになった。

「どうしたの?」
「いえ。何でもありませんよ」
「そう?」

 にっこりと微笑む表情は、揺るがぬ微笑の仮面。
 鍛えておいて本当に良かったと思う瞬間であった。



*  *  * 




『コンラッドが俺にエッチな気持ちで接してくれるかどうか、どうやって試したら良いかなぁ…。俺って色気成分の含有が1%未満っていう、なんちゃって果汁ジュース並みだもんなー。何か、エロ本とか見て研究した方が良いのかな?』

 有利は思い悩みつつ、ダークチェリーの味が移った指を口に銜えて《ちゅくり》と吸うと、無意識の内に《はぅ…》なんて甘い吐息を漏らして長い睫を伏せた。

 少なくとも、コンラートの目から見たら《混ざりっけ無し色気100%★魅惑のユーリジュース》的な存在であるとは露知らず、有利は大真面目に色気造りの方策を練るのであった。

 二人の想いが通じ合うまで、あと数週間という時期の出来事である。



おしまい




あとがき


 本サイト設立の切っ掛けとなった「虹を越えていこうよ」から、一番の大好物「両思いなのにまだ告白出来てない」時期の二人、如何でしたでしょうか?
どのジャンルでもそうなんですが、「初めて物語」って激しく萌えます。コンユでは特に、分かりやすく両思いだったりするので、かなり安心して萌えることが出来ます。

 たま〜に、「コンラッドの方は何とも思ってないみたいでつれない」タイプのお話にも萌え萌えするのですが、うちの話だと一目合ったその日から簡単に恋に落ちちゃうので難しい…。その代わり、母性愛に近い愛情が、恋人としての愛情に変わる必要はあるんでしょうけどね。

 何はともあれ、苦難(…と言うほどのモノでもないのですが)を乗り越えつつ4周年を迎えられて幸いです。