〜誕生日が来て次男との年の差縮まるみたいで嬉しい有利と、大賢者にプレゼント相談も、結局自分らしくお祝い次男〜
「ほんの小さな幸せに」
今年もやってきました誕生日。
もう何度目になるのか、そろそろ指折り数えないといけない魔族的誕生日。
「王位に就いてから、ええと…」
「6年ですよ、陛下」
「陛下って言うな、名付け親」
それでは6年もこんな遣り取りを繰り返しているのか。自分たちも飽きないものだ。
執務室で相変わらずカリカリと羽ペンを揺らしながら政務に励む宰相殿は、自分たちよりも強くそう思っているかも知れない。
『昔は男の誕生日なんて、小学校卒業したら何てことないやって思ってたけどな』
今は結構誕生日が来る度に気になる。コンラッドとの年の差が縮まるような気がするからだ。実際にはコンラッドも年を取るのは分かっているけれど、たとえば10歳と20歳で付き合ったら犯罪だが、20歳と30歳には許容範囲だし、50歳と60歳なら何の問題もないみたいなものだ。
『最初が16と100だったんだよな?今は22と106か』
…年の差がありすぎて、許容範囲になったのか問題が無くなったのか良く分からない。 まあイイや。
「今年も盛大に開催致しますよ〜っ!」
ギュンターは毎年のことながら気合い満点で、もう数ヶ月前から準備を進めているらしい。
「うん。まあ、でも別に何周年とかいう区切りでもないから、ほどほどにね?半端な区切りであんまり派手にやると、10周年の時とか大変になるしさ」
「ですが、やはり一年に一度の聖誕祭ですよ!?」
「あんまり堅苦しくない宴にしたいな〜」
そんな問答を、コンラッドは小首を傾げながら聞いていた。
* * *
『どうしようかなぁ…』
《あまり派手な前例を作ると後が大変》…それはコンラートが身に染みて感じていることだ。
何しろユーリが眞魔国にやってきた年には嬉しくて嬉しくて、彼を喜ばせたいあまりに全力で野球場を用意したものだから、後のお祝いがどうしても規模が小さいなと感じるようになった。
勿論ユーリは何をあげても喜んでくれるのだが、コンラートの中では《もっともっと》と欲張ってしまう部分がある。
「どうかしたのかい?ウェラー卿」
「猊下」
ユーリがトイレに入っている間に、入れ替わりに出てきた双黒の大賢者から声を掛けられる。一応(?)ユーリの親友というスタンスの彼に、ふと聞いてみようかという気になった。
「実は陛下のお誕生日に何を贈ろうかと悩んでおりまして。よいお知恵を貸しては頂けませんか?」
「ああ、君ってば最初の年にはっちゃけて野球場なんか贈っちゃったもんね。あれを越えるのはなかなか難しいよね〜。あと、君に良いアイデアを渡しちゃうと、僕が渋谷から感謝して貰えないという罠なんだよねー」
「は…はあ……」
意地悪な物言いにも、いい加減6年も経てば馴れる。実質的にはコンラートが眞魔国に帰還してからの5年ほどだ。最初の頃はもっと風当たりが強かった。《眞王の命令》といったところで、眞王自体に何ら尊崇の念など抱いていない彼のこと、大切なユーリを傷つけたコンラートを許すまじと言う怨念すら感じた。
それこそ、《お姑さんか》という勢いで苛められた。
だが、5年も苛められればそろそろ対処法も弁えてくる。
全力で申し訳なさそうな顔をして《申し訳ありません》《ごもっともです》と言い続けていると、ひとしきりくどくどと小言を言った後には、多少コンラートの言うことも聞いてはくれるのだ。
そろそろ練れた嫁化してきた感のあるコンラートだった。
「…とまあそういうわけで、渋谷の今年のマイブームはこんなところかな」
「とても参考になりました。ありがとうございます」
多分絶対、マイブームが柄物の紐パン収集(ちょっとエグいくらいのレース物)というのはフカシだと思うが、どうぶ○の森に填っているというのは信憑性がある。眞魔国の少数不思議生物を探し出してプレゼントするというのはアリかもしれない。
だが、ユーリに《探しに行ってもいいですか?》と聞こうと思って踏みとどまる。いかん。探索の旅になど出掛けたら、ユーリの傍にいられなくなるではないか。
《傲慢なことを言うな》と言われそうだが、ユーリにとってはコンラートが傍にいないことの方が、気の利いたプレゼントが貰えないことより痛いのでは無かろうか?
「…ユーリ、誕生日の贈り物楽しみにして下さいね?」
「へー、なにくれんの?」
「実はまだ辿りついていません」
「なんだいそりゃ」
「でも、ずっと考え続けています。暇さえあればあなたが喜ぶ顔を思い浮かべて、何をあげたら良いか、何をしていると嬉しいと思われるかを、ずっとずっと考えています。だから、そのうちきっと良い贈り物に辿り着けると思います」
ユーリは廊下の窓から差し込む陽光に目をしばたかせながら、ふんわりと嬉しそうに微笑んだ。
「そりゃあ楽しみだ」
「《なにが貰えるかな?》っていう、わくわく感も楽しいですからね」
「そうだよね。それに、あんたが俺のために考えててくれるんだな〜って思うだけでも、なんか嬉しいよ」
大切な大切な我が主。
彼と《幸せ》の感じ方が同じであることにうっとりしながら、コンラートも柔らかく微笑むのだった。
おしまい
あとがき
えれェ短いですね。
本当に小さな幸せ話でした。
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