「秋の森の魔王様」
〜百万打記念イラストに無理矢理合わせたお話@〜
秋晴れの空のもと、おやゆびサイズの魔王陛下は護衛と共に秋の森へとやってきました。ひょこりと護衛の胸ポケットから顔を覗かせた陛下は、興味深そうにきょろきょろと辺りの様子を伺います。
「わあ…この辺りも随分と色合いが違うねぇ?」
「以前来た頃は初夏でしたからね」
ユーリ陛下が不思議そうに呟くと、護衛のウェラー卿コンラートも《ご尤も》と頷きます。前にきたときには鮮やかな新緑が目に眩しかったですが、今は緑にしても深みのある色合いに変わってきていますし、落葉樹などはかさかさと乾いた枯葉に覆われています。ふっさりとした苔だけが黄緑色をしていますが、それも初夏に比べると少し落ち着いた色合いのように思われます。
「ねえねえ、少し自分で歩いてみても良い?」
「俺の目が届く範囲であれば結構ですよ」
好奇心に目を輝かせる陛下の要望を、コンラートはちょっぴり心配そうな顔をしながらも許してくれました。元々《陛下》なんて呼ばれる人の御身を護るためには細やかな配慮が必要なのですが、この可愛らしい魔王陛下は何せ小さいものですから、コンラートの心配も致し方ないことなのです。
だって、ツバメやモグラに浚われてしまいそうな陛下を、迂闊に歩かせておくことなんて出来ないでしょう?
『ユーリが魔王でなくたって、心配でしょうがないんだけどね?』
コンラートはそっと自嘲の笑みを浮かべます。彼はこの可愛らしい陛下にぞっこんなのですよ。
「コンラッド、見てみて!すごい大きい茸!」
「へえ…これは立派な茸ですね?」
確かにそれは大きな茸でした。木の根と下生えの間からひょこりと顔を覗かせた茸は、枯葉を押しのけてみると、赤みがかった笠と太い幹が堂々たる様子を見せています。これは毒茸なので食べられませんが、色が鮮やかなのでよく絵に描かれたり、お伽噺の中に登場したりします。
「すごいねぇ…。茸の王様って感じ!」
「では、陛下の玉座にどうでしょう?」
コンラートくすくす笑いながら丁寧な所作でユーリを茸の上に乗っけます。
「わあ!ふかふかするよっ!」
茸の上でぴょうんと跳ねるユーリはご機嫌です。コンラートも、丁度ぴったりな大きさの茸とユーリの姿に目を細めると、胸ポケットの中にしまっていた緋のマントを取りだして、ちょいちょいと襟元で結び、目に付いたドングリの枝を持たせてあげます。
「やあ…立派な魔王陛下の玉座ですね」
「えへへぇ…!」
笑うユーリの頭に、ふわふわと落ちかかってきた黄色い落ち葉が乗りますと、まるで王冠のようです。
「ああ…森までがあなたを魔王陛下として祝福しているみたいですね」
「そーかなぁ?」
護衛からの手放しの賞賛に、ユーリは照れ照れと頭を掻きます。
コンラートが向ける笑顔が嬉しくて、ユーリは釣られて笑顔になり、その笑顔に釣られてコンラートも益々笑顔になって行きますので、笑顔の連鎖は何処までも続いていきます。
ふくふく…
ふくく…
森の植物や動物たちにもその笑顔が広がっているなんて、二人はちっとも知らないでしょうね?
おしまい
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